高層ビルの少女について

REFLECTION(第1話)

加藤那奈

小説

20,208文字

高層ビルに立つ少女とその噂についてお話ししたいと思います……。(2022年)

IX

 

うん、そうだね。

わたし、は、彼女の独り言に相づちを打つ。

彼女の呟きは、わたし、の、囁きだ。

呟きが彼女を彼女に引き留める。

囁きが、わたし、の、居場所を確保する。

どんなに小さくても声にすることに、聞き取ることが出来なくても耳を傾けることに意味がある。彼女は唄うように呟き、わたし、は、それを途切れ途切れの音楽のように聞く。わたし、の仕草、は、彼女に届いているはずだ。彼女はそれに気がついていないかもしれない。それでも感じているはずだ。だから、彼女は歌い続ける。わたし、が、促す。彼女は歌う。それが自らの感情の発露であるかのように。

そうか、そうなんだ。

うんうん、それで。

彼女もきっと何かを伝えたいわけではない。わたし、も、何かを知りたいわけではない。あたかも会話のような言葉の連鎖を維持することだけが求められている。

求められている?

いや、たぶん、これは法則のようなものなのだ。目的があるわけではないのだ。平衡を損なえば変化があり、その後に結果がある。時にはそれが目的であるかのように振る舞っているし、目論見との相違に幾度も行動を修正する。だが、その順序は問うべきものではない。時間という制約の中でしか有効に働かない。全ては自然に整合する。している。だからといって予め決定しているわけではない。何も決まってはいない。輪郭線はぼんやりしている。視座が僅かにずれるだけでその姿は別の形を為す。わたし、も、誰かのまなざしの中で、わたし、の、知ることができない、想像すら叶わない容姿を持っている。はずだ。

人は意味を問い、答えを求め、一連の価値を計る。それは水が流れるのと等しい。意図が意識されようとされまいと、その経過は崩れることなく時間の中で整列する。とても、きれいに、並ぶ。そして、その法則が守られていることに安堵したうえで、自らを肯定し、あるいは否定し、自らの存在を確かめている。いる、らしい。わたし、は、それを理解するけれど、それはゲームのルールと変わりがない。
うん、そうなんだ。

彼女は、骰子の目に沿って、決められた道筋を辿り、用意されたシナリオを追うように考え、独りごち、囁き、唄う。あがりの見えないゲームボードの上で、ダンスめいたステップで歩を進める。わたし、も、同じだ。ただ、わたし、は、それを知っている。わたし、は、彼女に寄り添いながら、その声に耳を傾ける。彼女に気づかれないまま、頷き、彼女を抱き寄せる。

2025年1月5日公開

作品集『REFLECTION』第1話 (全2話)

© 2025 加藤那奈

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