今月は新潮、文學界、群像、すばる、文藝の5誌が発売された。5誌の概観をここで紹介しよう。

新潮 2024年11月号

・「第56回新潮新人賞」が発表。受賞作は竹中優子「ダンス」と仁科斂「さびしさは一個の廃墟」の二作。

・【特集】「熊野大学2024 中上健次×大江健三郎」として、今年八月に和歌山県新宮市で行われた「熊野大学2024」シンポジウムの模様を掲載。高澤秀次「初期中上世界にみる大江症候群」、川本直「中上健次をクィア・リーディングする」、松田樹+森脇透青「変態へと変態せよ――熊野大学の浅田彰」。

・創作では、円城塔「去年、本能寺で」、石井遊佳「かけこみ一番」が掲載。

・「第23回小林秀雄賞」は、池谷裕二『夢を叶えるために脳はある 「私という現象」、高校生と脳を語り尽くす』。

・「第32回萩原朔太郎賞」は、最果タヒ『恋と誤解された夕焼け』。

・片山杜秀による新連載「雅とまねび――日本クラシック音楽史」がスタート。

文學界 2024年11月号

・PC/ワープロによって書き始めた二人が、デジタル時代の時間と小説の関係について語り合う長嶋有×千葉雅也による対談「保存されない時代を描く」、クレイジーケンバンド(CKB)をこよなく愛する岸政彦が、横山剣(CKB)の歌詞の世界の本質に迫る、二人の初対談「男の美学とチャーミングな情けなさ」。

・【創作】では、町田康「津井田殺し」、津村記久子「ログアウトボーナス」、遠野遥「関係」、篠原勝之「いきあたり奈良」、坂上秋成「泥の香り」が掲載。

・【追悼 福田和也】として、先日亡くなった福田和也を追悼し、平山周吉が「福田和也の『生前退位』」、酒井信が「福田和也という人――文化保守の情感」をそれぞれ寄稿。

群像 2024年11月号

・【小特集・吉野と文学】として、いとうせいこう×安藤礼二の対談「物語を脱臼させる磁場 ――谷崎の吉野、中上の熊野」、安藤礼二による評論「「国栖」、神話と物語の源流を求めて」、いとうせいこうによる能の現代語訳「国栖」が掲載。

・井戸川射子による新連載の創作「私的応答」と、向坂くじら×紗倉まなによる新連載の往復書簡「ふたりのための往復書簡」がそれぞれスタート。

・【創作】では、石沢麻依「鳥を飼うひと」、長野まゆみ「月と日」、町屋良平「小説の死後 ――(にも書かれる散文のために)――「批評」しやすい吉井磨弥、「批評」しにくい青木淳悟」。個人的に注目したいのは、鳥山まことによる中篇「アウトライン」。昨年、『あるもの』で「第29回三田文學新人賞」を受賞。今作は、 一級建築士でもある彼が建材メーカーに勤める「私」を描いた「建築」文学。

・【『言葉の道具箱』刊行記念小特集】として、エッセイ集『言葉の道具箱』を上梓した著者・三木那由他にスポットを当てる。インタビュー「日常と哲学を架ける言葉」(聞き手=岩川ありさ)、川添愛による書評「綻びと向き合う勇気、そのための道具」、本の名刺「お気に入りの哲学を詰め込んで」。

すばる 2024年11月号

・「第48回すばる文学賞」が発表。受賞作は樋口六華「泡(あぶく)の子」、佳作に新崎瞳「ダンスはへんなほうがいい」。

・李琴峰による小説「東京奇伝」が掲載。

・2021年にノーベル文学賞を受賞したザンジバル生まれの英作家アブドゥルラザク・グルナの未邦訳短篇「檻」が、くぼたのぞみによる訳で掲載。同氏による解説も併せて。

・奥泉光×いとうせいこうによる文芸漫談「夏目漱石『虞美人草』を読む」。

文藝 2024年秋季号

・「第61回文藝賞」が発表。受賞作は待川匙「光のそこで白くねむる」と松田いりの「ハイパーたいくつ」の二作。待川・松田による「受賞の言葉」、選考委員の小川哲、角田光代、町田康、村田沙耶香による選評も。

 さらに、村田沙耶香×待川匙「〝記憶の不確かさ〟を暴く異彩の詩情」、小川哲×松田いりの「実用性ゼロ。ハイパーな魂の屹立を」の受賞記念対談、選考経過が掲載。

・【特集ゲームをせんとや生まれけむ】として、創作では斜線道有紀×桜庭一樹による共作「場外戦/怪物のまま生きてゆく」、柚木麻子「ゴーホーム美容沼」、本谷有希子「垢、澱、デュアルショック」、王谷晶「君色の季節へ……」、間宮改衣「ライフリクエスト」が掲載。論考では、近藤銀河による「個人の生を語るインディゲーム」、山本貴光「そこは何ができる場所なのか ゲームのエコロジーに向けて」。

 エッセイでは、三木那由他「ゲームを、そして私自身をプレイする」、麻布競馬場「人生ってゲームなんですか?」、ソーシキ博士「見る・遊ぶ・買う」、村雲菜月「彼女や彼らを現実に連れ出すために」が掲載。特別企画として、近藤銀河+葛西祝「個人の現実が世界を創る ゲーム作家ガイドAtoZ」も。

・創作では、大前粟生「物語じゃないただの傷」、紗倉まな「ガールズ・ファイト」。

以上、2024年10月発売の5誌について、概観を紹介した。読書の一助になれば幸いである。