今月は新潮、文學界、群像、すばる、文藝の5誌が発売された。5誌の概観をここで紹介しよう。さらに、破滅派フリークには必読情報もあるので確認されたい。
新潮 2022年11月号
・『第54回新潮新人賞』が発表。 黒川卓希による受賞作「世界地図、傾く」が掲載。2052年、移民国家となった日本が舞台。母語と母国、国際と国粋、愛と性が揺らぎ、トリックスター的政治活動家が暗躍する、近未来から今を照射する大胆で無謀なデビュー作。受賞者インタビュー「二〇五二年から見た日本」と、大澤信亮/小山田浩子/鴻巣友季子/田中慎弥/又吉直樹による選評も。
・『第21回小林秀雄賞』は、竹内康浩・朴舜起による「謎ときサリンジャー――「自殺」したのは誰なのか」。
・『第30回萩原朔太郎賞』は、川口晴美による「やがて魔女の森になる」。
・柴崎友香による『天気の変わり目』が掲載。ある動画に映った、故郷の家の穴。台風が迫る中、一瞬雨が止み、そして世界がざわめきだす。
文學界 2022年11月号
・【総力特集】「JAZZ×文学ふたたび」として、村上春樹のロングインタビュー「モダン・ジャズ以前のジャズについて聞く」(聞き手・村井康司)や、岸政彦によるオーラル・ヒストリー「沖縄ジャズの生活史――テリー重田と上原昌栄」、上田岳弘「You don’t know what love is.」、宮内悠介「暗流(アンダーカレント)」、山中千尋「フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン」、ジュエル・ゴメス「ドント・エクスプレイン」(岸本佐知子訳) 作者・作品紹介(佐久間由梨)というジャズ小説など一挙掲載。
・【短篇競作】「忘れる」として、川上弘美「銀色の鍵」、小山田浩子「蛍光」、立川吉笑「歩馬灯」、マーサ・ナカムラ「とんぼ」、能町みね子「テレビと体表面についての落としどころのない日記」が掲載。そして、『ギークに銃はいらない』も好評な斧田小夜による短編「海月生物群集」が掲載される。斧田ファンにも必携の完全保存版となっている。
・【追悼 ジャン=リュック・ゴダール】として、蓮實重彦「映画作家ゴダールは、その『特権性』を晴れやかに誇示しながらこの世界から姿を消した」が掲載。
・【追悼 宮沢章夫】として、松尾スズキ「戯曲ではない。台本があった。手書きなのであった。」も。
群像 2022年11月号
・上出遼平による「歩山録」と鎌田裕樹による「野良の暦」と、新連載が二本スタート。
・創作では、石沢麻依「マグノリアの手」、片岡義男「あのバーに入ってみた」、くどうれいん「キウイ縞々」、津村記久子「買い増しのてん末(※正しくは旧字体)」、長島有里枝「去年の今日」が掲載。
・英国エリザベス女王が先月亡くなったことを受け、小川公代による特別エッセイ「エリザベス女王――唇を噛み締めて(※噛みは、正しくは印刷標準字体)」が掲載。英国史上最長の在位を誇った女王の死。英文学者によるメモワール。
・惜しまれつつ亡くなった中井久夫氏、世界的ファッションデザイナー三宅一生氏について、鷲田清一による特別寄稿「中井久夫、そして三宅一生――生きてあることの地肌へ」が掲載。
・神田伯山「講談放浪記」が最終回を迎える。
・個人的に注目したいのは、最新詩集『有毒植物図鑑』をしろねこ社から発売したばかりの草野理恵子による随筆「美しい元素」。Twitterで毎日自作の詩を発信し続け、惑星と口笛主宰の西崎憲に「異常なレベル」と言わしめた才能がついに五大文芸誌に登場。
すばる 2022年11月号
・千早茜による新連載「傷痕」が「(1)竜舌蘭」でスタート。
・『第46回すばる文学賞』が発表。受賞作は、大谷朝子による「がらんどう」。奥泉光、金原ひとみ、川上未映子、岸本佐知子、堀江敏幸による選評と、受賞者インタビューも併せて掲載。
・森鴎外(※正しくは印刷標準字体)没後100年として、平野啓一郎による基調講演「鴎外を今読むこと」と、平野啓一郎×青山七恵×平出隆×ロバートキャンベルによるパネルディスカッション「読み継がれる鴎外」が掲載。
・角幡唯介による「裸の大地(第二部)」と、島田雅彦による連載「時々、慈父になる」が「(4)後のことはおまえに任せた」で最終回を迎える。
文藝 2022年冬季号
・第59回文藝賞が発表。受賞作は、安堂ホセ「ジャクソンひとり」と日比野コレコ「ビューティフルからビューティフルへ」。選考委員、角田光代、島本理生、穂村弘、町田康による選評も。
・【特集 魔女・陰謀・エンパワメント】として、円香×雨宮純による対談、王谷晶、カレン・ラッセル(松田青子訳)、近藤史恵、アリス・ソラ・キム(加藤有佳織訳)による創作、木澤佐登志、北村紗衣、橋迫瑞穂、河西瑛里子による論考、吉村萬壱、平松洋子、鈴木みのりによるエッセイなど一挙掲載。
・岸政彦による新連載「クアトロ」がスタート。
・創作では、小川哲「神についての方程式」、金子薫「成るや成らざるや奇天の蜂」、水沢なお「うみみたい」が掲載。
以上、2022年10月発売の5誌について、概観を紹介した。読書の一助になれば幸いである。
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