まず、検討にあたって本作の主人公の記述には主観的な嘘はないものとする。この前提を崩しては推理にも小説にもならないからだ。ここで「主観的」と限定しているのは、主人公が誤信したことにより結果的に事実と異なっている可能性は残しているため。
次に、鈴木君の言動についてはどうだろうか。
主人公は鈴木君は嘘はつかないけどすべてを話すわけではないと推測している。推理ゲームの前提としては妥当な線だと思われるが、言動にすぎないため絶対的な根拠にはしないことにする。
これは鈴木君が本当に神様であっても同じだ。神様が嘘をつく必要がないのと同様に本当のことを言う必要だってない(神様が道徳的に縛られないのは鈴木君自身も言及している)からだ。
最後まで犯人がわからないという触れ込みの本作だが、作中でも一通りの推理はなされる。
ミチルが殺害の実行行為を行い、主人公の父が共犯で隠蔽工作に関与していたというものだ。それが覆されるのは、神様?の鈴木君に共犯者への天誅をお願いしたところ、母が火にまかれてしまう(死亡したかは不明)という結果が起きたことによる。
さて、本作で気になったのが次の二点である。
①「天誅」の定義・実行時期
②母親の事故?の原因
主人公は、ミチルが事故死したのは天誅によるもので、母が火にまかれたのも天誅によるものという前提から、自身の推理を否定することとなった。
天誅を下す鈴木君自身の言葉によると、天誅とは「神様が非道な悪人を懲らしめるために行う神業」である。
どうもよくわからない定義である。非道だとか悪人だとか鈴木君のいう神様像からするとあんまりそぐわない感じである。懲らしめるというのもいきなり殺してしまうのか、さらには直接危害を加えるのかどうかもはっきりしない。旧約聖書やギリシャ神話の神々は、殺さずに病にしたり姿を変えさせたり、当人ではなく子を皆殺したりとかするよねってやつである。ようは、いきなり当人を殺したのでは懲らしめられていることがわかる前に死んでしまう。
ただ、天誅は天罰の強化版らしいので(鈴木君談)そこまで考慮しないのかもしれない。
実行時期も不明だ。
鈴木君は猫殺しの犯人への天誅を7月14日(水)の時点で来週までに(「来週中までに」ないから19日(月)までということだろう)逮捕されなかったらという条件で頼まれているのに、7月20日(火)の掃除の時間で逮捕がされていないのにまだ天誅を下していない。天誅をおこなうにしてもすぐというわけではなさそうである。一年後に天誅を下してもいいわけだ。
こうしてみると、天誅がおこわなれたとする主人公の認識はあやしい感じがする。
母親の事故?は、主人公がろうそくを吹き消そうとして火が燃え移り消火できずにのたうち回るというものだ。にわかに信じがたいような出来事で、主人公のリクエストに応じて天誅がおこなわれたのではないかと思わせる。一方で、説明がつけば天誅も否定できる余地がある。
……なんて検討しているうちに分量がけっこう増えてきたので、場合分けをした上で巻き気味に進めよう。
1 天誅がおこなわれたとした場合
母親共犯説(主犯はミチル)。
物置に人が潜んでいなかったとして、代わりに井戸の蓋に隠れることは可能か?
母親は「小さい」とされている。
大人は無理とされているが、主人公たち(小4、10歳平均135センチ35キロぐらい、主人公はクラスで貧弱な方なのでもっと小さい)は余裕で可能であり、体の大きい孝志は(「中学生なみ」、12歳平均として155センチ45キロくらい)はギリギリ可能だと判断されている(主人公の推測)。
となると、女性で小柄な者なら大人でも可能だと思われる。
問題なのは主犯のミチルとの連携。
父親が共犯よりも緊密なものではなくなる。
ミチルとしては、警官が大勢きて厳密に捜査されるよりは父親だけの方がいいかと思ってそうした。結果的にうまくいった、と考えることは可能。
難点としては、父親の行動が刑事にしては不自然な点の説明ができなくなる。母親が現場にいた理由も不明。結局、共犯者に対する天誅が母親に下されたからという根拠だけになる。
2 天誅がおこなわれていないとする場合
父親共犯説(主犯はミチル)のまま。
ミチルの死亡はただの老朽化による事故。
鈴木君のウィンクの合図はそう見えただけ。あるいは事故に彼が便乗した。
母親が火にまかれたのもただの事故。
主人公は認識していなかったが母親がろうそくに近づきすぎていたために着火。着衣着火による火災や死亡事故は多数報告されている。表面フラッシュ現象で一気に燃え上がった。
天誅の内容がはっきりしない以上、じっさいにはおこなわれていない、あるいは父親に対する天誅が母親を傷つける形でおこなわれたとするのが、無難な解決である。
以上のように検討してきたが、あんまりぱっとしねえな。
そこで次の説をとなえたい。
主人公が神様で犯人説。
神様であることは無自覚。
主人公はじっさいに両親の本当の子ではない。だって神様だから。鈴木君は主人公の別人格で分離して別個に存在できる。だって神様だから。
示唆的な出来事として、本当の子ではないのやりとりを事故の前に母親としている。そして、事故がおきたのはケーキのろうそくの火をふき消すという誕生日(主人公は当日の7月25日が本当の誕生日だと認識している)における行為。すっとぼけた母親を無意識のうちに神様の能力で罰した。
英樹とは理不尽な注文をつけられ喧嘩し次の日も無視されて腹が立ったので無意識のうちに罰した。
ミチルの事件がちょっと苦しいが、あとで推理するようなことを当時から無意識のうちに考えてきた。好意を寄せていたミチルに裏切られたと感じて罰した。
ここまで書いて思った。これって邪悪な涼宮ハルヒだよ。昨年のセールのときにまとめて読んでみた影響が出てんな。と、つまらないオチが付いたところで終わります。
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