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メエティス

鏡私考(第2話)

鷹埜狩月

文友へ宛てた書翰、世間への鋭い批評、そして多感な時代に著者が抱いた思索の数々──。箴言や批判、信条、美学を断章形式で大胆に吐露した屈指の随筆記。

エセー

509文字

     智慧ちえ

 

古代の吾々われわれと現代の吾々にける智慧の存在は変はりつゝある。古代の吾々に於ける智慧は、いかに獲物を狩り生き延びるといふ単純明快他ならぬ生へのすべである。しかし現代の吾々に於ける智慧といふのは、いかに仮面を作り上げ、いくつもの人格を持ち、好かぬ他者を罵り快楽と優越に溺れるために用いる術である。もっとも、それは対面より遠隔に於ひて多用され重宝される。

 

     又

 

智慧を見せびらかしを落とす人間は孤独の象徴である。智慧を一切表さない者は隔絶の対象である。そしてある程度の智慧を持つておきながら、常識外の行為を採つて世の動きを妨げる者は単に知識人の敵である。

 

     又

 

勉学と智慧は少し異なつてくる。たとえるとするならば勉学は蝋燭ろうそくを数えることであり智慧はその火を見ることである。

 

     又

 

学は書に在り。智は人に在り。書をきわむる者は多し。人を窮むる者はまれなり。

 

     又

 

学は舟を造る。智は渡るかわを知る。舟を百艘ひゃくそう持ちながらも、岸に老ゆる者は決して少なくない。

 

     又

 

勉学の窮まるところ、往々おうおうにして無知を知る。智慧の極まるところ、屡々しばしば沈黙を知る。

© 2026 鷹埜狩月 ( 2026年6月15日公開

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