「よぐ獲れただ」と、帰り際に兵衛が云った。山中を歩行き廻っていたがために、彼の咾は嗄れていた。
「うん。でっかいのが獲れただね。これで暫くは無事だろう」歌之助はそう還した。
山道には、二人の他に、佐々木浅次郎、木暮新助、砂川四郎兵衛、美濃弓之助が、皆各々の猟銃を携えて──尾上兵衛と木内歌之助と、佐々木と木暮とで二疋の鹿を担いで──山道を黙々と歩行いていた。兵衛がそれに堪え切れずに口を開いたのであった。
「畑だ」誰かが云った。全員の耳が銃声に疲れていた。
「孫市は?」四郎兵衛は遠くに在る民家をちらりと見てから思い出したように訊ねた。孫市は村一番の烟突を持っていた。
大猫 投稿者 | 2026-02-17 21:03
夏目漱石とか中島敦を思わせる明治から昭和初期風の重厚な文体、令和になってから出会えるとは思わなかった。すごく嬉しい。これで旧仮名遣いで書いてあればもっと嬉しいが、それでは読む人がいなくなるのだろうな。
貧しい村の貧しい猟師たち、口数の少ない男たちのそれぞれの「老い」への向き合い方。晩夏のじわじわした暑さ。鹿の屍(ダジャレではない)
若干、気になる点はあるものの、断然、その心意気やよし!
これからもどんどん発表してほしい。
宮國 凛斗 投稿者 | 2026-03-01 19:00
ギフテッドみたいな文体!?
今どき、こういう文章を書く人があんまりいないからめっちゃ嬉しい!
鮮明に描写しているから意外とわかりやすい!
これからも頑張ってください!