安部公房の遺作『飛ぶ男』が2月28日に、新潮文庫から発売される。

 安部公房は1924年3月7日、東京生まれ。東京大学医学部卒。1951年「壁」で芥川賞を受賞。1962年に発表した『砂の女』は読売文学賞を受賞したほか、フランスでは最優秀外国文学賞を受賞。その他、戯曲「友達」で谷崎潤一郎賞、『緑色のストッキング』で読売文学賞を受賞するなど、受賞多数。1973年から演劇集団「安部公房スタジオ」を結成、独自の演劇活動でも知られる。海外での評価も極めて高く、1992年にはアメリカ芸術科学アカデミー名誉会員に。1993年急性心不全で急逝。2012年には、読売新聞の取材でノーベル文学賞受賞寸前だったことが明らかにされた。

 『飛ぶ男』は、安部公房が1993年に急性心不全で急逝した後、愛用していたワープロのフロッピーディスクの中から発見された未完の絶筆。時速2、3キロで滑空する飛ぶ男を目撃した暴力団の男、男性不信の女、とある中学教師の三人の運命が錯綜する。

 今回の文庫は、生誕100年を記念した企画。1994年に刊行された『飛ぶ男』(単行本/新潮社)は安部公房の死後、長年寄り添った真知夫人が原稿に手を入れたバージョンだった。今回の文庫版では、フロッピーディスクに遺されていた元原稿(安部公房全集029に収録されているものと同じ)を底本とし、安部公房自身による完全オリジナルバージョンとして刊行される。また、表題作のほか「新潮」で連載が始まった「さまざまな父」を収録。

 なお、新潮社から文庫新刊が発売されるのは、1995年『カンガルー・ノート』以来、約30年ぶり。