新潮文庫から刊行されていた海音寺潮五郎の小説『西郷と大久保』および『江戸開城』が、2017年12月より新装版として店頭に並んでいる。新たに装画を手がけたのは人気漫画家・井上雄彦で、西郷隆盛、大久保利通、勝海舟といった幕末の偉人たちのイラストが描き下ろされた。

鹿児島出身である海音寺にとって、郷土の英雄・西郷について書くことはライフワークだった。2018年が明治150年にあたることから西郷や幕末にスポットの当たる機会が増えているが、今回の新装版もそうしたブームに乗って刊行されたものといえるだろう。折しも海音寺もちょうど没後40年だったことから、あらためて海音寺作品を世に出すには絶好のタイミングだった。

『SLAM DUNK』『バガボンド』等で知られる井上雄彦に白羽の矢が立ったのは、同じく鹿児島出身だという縁があったためだ。文芸作品の装画を人気漫画家が担当するというのは数年来の流行りではあるが、井上の場合は写実的な絵柄も得意なので、重厚な歴史小説にもよく馴染んでいる。ただ漫画家の人気に乗っかっただけの一部企画とは一線を画した試みといえるのではないだろうか。

2作のうち『江戸開城』に関しては長い絶版状態からの復刊でもあるので、井上ファンならずともぜひ手に取ってみてはどうだろう。