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誕生日、バラが散る日

かきすて(第18話)

吉田柚葉

こういうのあるから電車の運転手はキツイなあと思い書きました。

小説

1,410文字

武田は電車運転士として地方鉄道に十五年間つとめ、計十二件の人身事故をけいけんした。だがじっさいに警察から人身事故だとみとめられたのはそのうち十一件だけだった。さいごの一件、武田はたしかに線路に立つ黒いジャンパーを着た少年を見たし、車体の前方部がかれのからだに激突し、あたりいちめんに血が噴いたのもその両目につよくやきついていた。武田の主張をうらづけるあまたの証言もあった。

少年の自殺をとめるために車のそとに出ようとドアのロックをはずしたと話す男性もいたし、げんばには女性の嬌声もひびいていた。

しかし、あるのは「見た」という声ばかりで、肉片のひとつもなければ、噴いたはずの血の跡もなく、死体はどこからもみつからなかった。それらしい行方不明者の情報もなかった。

「電車にぶつかった衝撃でからだが吹っ飛び、死体はちかくのビルで発見されたらしい」

そんな冗談ともほんとうともつかないうわさがインターネット掲示板にひっそりと書き込まれたころ、武田は引退を決意した。

© 2021 吉田柚葉 ( 2021年1月31日公開

作品集『かきすて』第18話 (全40話)

かきすて

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