智慧
古代の吾々と現代の吾々に於ける智慧の存在は変はりつゝある。古代の吾々に於ける智慧は、いかに獲物を狩り生き延びるといふ単純明快他ならぬ生への術である。しかし現代の吾々に於ける智慧といふのは、いかに仮面を作り上げ、複つもの人格を持ち、好かぬ他者を罵り快楽と優越に溺れるために用いる術である。尤も、それは対面より遠隔に於ひて多用され重宝される。
又
智慧を見せびらかし他を落とす人間は孤独の象徴である。智慧を一切表さない者は隔絶の対象である。そしてある程度の智慧を持つておきながら、常識外の行為を採つて世の動きを妨げる者は単に知識人の敵である。
又
勉学と智慧は少し異なつてくる。譬えるとするならば勉学は蝋燭を数えることであり智慧はその火を見ることである。
又
学は書に在り。智は人に在り。書を窮むる者は多し。人を窮むる者は希なり。
又
学は舟を造る。智は渡る河を知る。舟を百艘持ちながらも、岸に老ゆる者は決して少なくない。
又
勉学の窮まるところ、往々にして無知を知る。智慧の極まるところ、屡々沈黙を知る。
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