詩「寄る辺なく寄せる波」

藁食む兎(第2話)

多宇加世

627文字

私の住む町には海があります。

甘えたら赦してくれたので波打ち際にもう一度、茜を埋めた。茜のくすくす笑いが、寄る辺なく寄せる波に掻き消されず聞こえていたが、じきに砕ける波の音のみが遠浅の浜に響くだけになった。砂を掘り返すと、茜が「有紀くん、ごめんね。有紀くん、ごめんね」と砂だらけで息を吹き返した。有紀はまた甘えるそぶりを見せた。いや今回は、いやあるいは、いつものことであったが、俺が死んだらどうするんだ、良心の呵責に耐えかねて、だって俺、茜に酷いことしたから、このままみたいにはもうこれからは一緒にいられなくなるし、もしかしたら、捕まるかもしれないし、そしたら俺もう茜を助けてあげられないよ、と言った。脅しだ。茜はそれでぽろぽろ泣いて有紀を赦した。うん、うん。私がもっと潜ってられたらいいんだよね。有紀はというと違うことを考えていた。ゆっくんて呼んでほしい。そろそろ引き揚げて自分をゆっくんと呼ぶ別の女のところに行こうか。ステーキ肉でも買っていけば、焼いてくれるだろう。真っ二つに割れた大皿に盛りつけよう。聴きそびれたこないだの話の途中から透明な膿が出るように、その膿で二人がぴったりくっつくように、少し喋ってから寝よう。朝になったら蛍光灯のちかちかがいかに人を怖がらせるか、僕を怖がらせたか、僕は自分をゆっくんと呼ぶ女に教えよう。今現在の話ではない。昔の話だ。かこの、子供の頃の話だ。そうだ、その話を有紀はしようと思った。そう考えている有紀に茜は今気付いたがそれはあまりにも遅すぎた

2021年1月31日公開

作品集『藁食む兎』第2話 (全10話)

© 2021 多宇加世

読み終えたらレビューしてください

リストに追加する

リスト機能とは、気になる作品をまとめておける機能です。公開と非公開が選べますので、 短編集として公開したり、お気に入りのリストとしてこっそり楽しむこともできます。


リスト機能を利用するにはログインする必要があります。

あなたの反応

ログインすると、星の数によって冷酷な評価を突きつけることができます。

作品の知性

作品の完成度

作品の構成

作品から得た感情

作品を読んで

作者の印象


この作品にはまだレビューがありません。ぜひレビューを残してください。

破滅チャートとは

この機能は廃止予定です。

タグ

この投稿にはまだ誰もタグをつけていません。ぜひ最初のタグをつけてください!

タグをつける

タグ付け機能は会員限定です。ログインまたは新規登録をしてください。

作者がつけたタグ

散文詩

"詩「寄る辺なく寄せる波」"へのコメント 0

コメントがありません。 寂しいので、ぜひコメントを残してください。

コメントを残してください

コメントをするにはユーザー登録をした上で ログインする必要があります。

作品に戻る