甘えたら赦してくれたので波打ち際にもう一度、茜を埋めた。茜のくすくす笑いが、寄る辺なく寄せる波に掻き消されず聞こえていたが、じきに砕ける波の音のみが遠浅の浜に響くだけになった。砂を掘り返すと、茜が「有紀くん、ごめんね。有紀くん、ごめんね」と砂だらけで息を吹き返した。有紀はまた甘えるそぶりを見せた。いや今回は、いやあるいは、いつものことであったが、俺が死んだらどうするんだ、良心の呵責に耐えかねて、だって俺、茜に酷いことしたから、このままみたいにはもうこれからは一緒にいられなくなるし、もしかしたら、捕まるかもしれないし、そしたら俺もう茜を助けてあげられないよ、と言った。脅しだ。茜はそれでぽろぽろ泣いて有紀を赦した。うん、うん。私がもっと潜ってられたらいいんだよね。有紀はというと違うことを考えていた。ゆっくんて呼んでほしい。そろそろ引き揚げて自分をゆっくんと呼ぶ別の女のところに行こうか。ステーキ肉でも買っていけば、焼いてくれるだろう。真っ二つに割れた大皿に盛りつけよう。聴きそびれたこないだの話の途中から透明な膿が出るように、その膿で二人がぴったりくっつくように、少し喋ってから寝よう。朝になったら蛍光灯のちかちかがいかに人を怖がらせるか、僕を怖がらせたか、僕は自分をゆっくんと呼ぶ女に教えよう。今現在の話ではない。昔の話だ。かこの、子供の頃の話だ。そうだ、その話を有紀はしようと思った。そう考えている有紀に茜は今気付いたがそれはあまりにも遅すぎた
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