伏見通りの桜

大川縁

519文字

伏見通りの暮時の桜が奇麗だったな、と冬を目前に思い出しながら書きました。無骨な詩でして、感情も控えめにしたので、どこか寂しげな印象になったかもしれません。

通勤途中の顔ぶれは、何度か見かけたものが揃っていた。

皆、それぞれの目的を果たすために、前を向く。

今彼らは自分がどんな表情をしているのか、考える必要はないのだろう。

ただ今日という命を、存在する限りを全うするために、

彼らは前を向き、考えられるだけの余力をもって、今日に臨む。

 

信号待ちの自転車は、一時の沈黙と、人々の視線を交差させるが、

この混線に、どれひとつとして抱き合う思惑はなく、

横断歩道の先でさえ、遠い過去のことに等しく。

 

玉川上水に溜まった泡ぶくを、眺めていた

その老人の引きずった脚は、伏見通りをなぞる。

桜並木に誘われるのか、緩やかな坂を上って消えた。

 

今日の終わりを目指し、目的を果たした者と、果たせなかった者と、

どちらにも同じように、日暮れの時間は訪れ、

また信号待ちをする人々は、遠い過去に視線を交わせる。

明日のことを考えているのか、

それとも昨日のことを考えているのか、

その表情からは、窺うことはできない。

 

夜風が

伏見通りに散っていた桜の花弁を

巻きあがらせるのを見つめるまでは、

誰一人として、その思いを瞳に宿すことはなかった。

 

2016年10月10日公開

© 2016 大川縁

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