患者名 灰 / ID 該当ナシ
※「本名で 呼ばないでください」と 本人 申告
【主訴】
ガラスが 足に 入ったまま 抜けません。
いえ、足のほうが ガラスに 入ったのかも。
午前零時になると、カボチャの匂いの内臓が
ひとつ、足りなくなる。
【現病歴】
舞台の 袖、いわゆる 楽屋裏にて 発症。
拍手の 残響が 鼓膜に 灰を 降らせ、
「わたし」と 書こうとすると、ペンが 「彼女」と 綴る。
この 乖離、初診時より 進行。
【バイタル】
体温 拍手の たび 0.3度 上昇
血圧 ドレスの 締めつけ 相当
脈拍 午前零時へ 向け 加速 ─ 零時に 停止 ─
アンコールにて 蘇生
所見 瞳孔に フラッシュ 残留。対光反射、ナシ。
【既往歴】
12歳、処方により カボチャを 馬車へ。
副作用として、零時以降の 記憶、欠落。
処方者は すでに 廃業。
靴、片方のみ 提出。サイズ、いまだ 不適合。
【経過】
プリンス と 名乗る者、来院。
「これが あなたの 足ですか」と 靴を かざす。
わたしは 笑う。だって 足のサイズで 同定される 検体だもの。
笑いながら 灰を 吐いた。
彼は それを 拍手と 勘違いし、もう一度 求婚した。
── ここで 人称が 砕けます。
わたし/彼女/患者/灰/検体/元・女の子。
ぜんぶ 同一 個体。ぜんぶ サイズ違いの 靴。
【診断】
寛解の 見込み、ナシ。
本人 談 ──
「治らなくて けっこうです。
零時を 過ぎても まだ 馬車で いられるなら、
わたしは カボチャの 内側で
腐っていく ほうを 選びます」
【処方】
鏡 一日 三回。ただし 映らない 仕様。
拍手 頓服。効果、三秒。
灰 適宜。なるべく 減塩で。
【備考】
退院後の 行き先、不明。
靴は 返却 不要 とのこと。
次回 予約 ── 午前零時。
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