おまへの胸に
ちひさな打樂器がひとつ。
神さまが
ねむつてゐた、その夜に
お止メ忘レた
鼓よ。
とぷ、とぷ、と
夜のすきまへ
零れつづける
鼓動の苗。
やがて根は
誰のものでもない胸の
暗渠へ降り
他人の脈搏に
接がれてゆく。
◇
神さまにも眠りはある。眠つてゐたから、おまへの心ノ臟のうへに添へてゐた指は離れた。眠つてゐる神を、誰が起こしに行けるだらう。眠つてゐるあひだ、世界を見てゐたのは誰か。眠りは罪ではないと言ふひともゐるが、ねむりそびれてゐる側からすれば、神の眠りはひとつの過失だ。それを赦すには、おまへはまだ若すぎる。あるいは、年を取りすぎてゐる。
◇
おまへは
朝を継いで
朝を継いで
継ギハギの
朝光に
洗はれてゐる。
ひと打ち
ひと打ち
あまる
あまる
あまる
◇
コップの底の水を捨てる。郵便受けに手を入れる。冷蔵庫の音をきく。指の腹で電気を點ける。靴下を裏返す。世界の外縁に指がふれるだけの、それだけの仕事を、おまへは日に幾度もくり返す。心ノ臟は止メ忘レられたまま、肉ムラ鼓として、夜ごと、誰のものでもない夜気を打つ。輸血の袋に落ちる雫の數も、戰地でまだ數へられてゐない死者の數も、おまへの拍數の何分の一かである。
◇
おまへの胸の
忘レ鼓は
今日もなる。
止まらぬかぎり
それは
神さまの過失。
止まらぬかぎり
それは
神さまをゆるさぬための
韋乃理。
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