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夜晒紙

無花果回

ひとりに慣れすぎて一枚の紙になった
川にも海にも井戸にもなれず
下水をゆるやかに流れていく

それでも
畳の埃と混ざった繊維のかけらが
誰にも汲まれずに光っている
──〈なりそこねる〉ことの倫理について書きました

タグ: #シュルレアリスム詩 #孤独詩 #幻想詩 #詩

566文字

夜更け
わたくし は
独り で ある こと に
慣れ過ぎて
とうとう
薄い 紙 に
なりました

 

湿って
天井灯 の 光 に
透けてゆく

 

これ を夜晒紙よさらしがみと呼ぶ の だ さう だ
*

だれ か が
む か し
わたくし の 上 に
指 の 腹 で
ひとつ、 印 を 遺した

 

インク で は なく
たなごころの 熱

 

その 熱 が
今 も
繊維 の
ほどけない 奥 に
残って ゐます

 

「── さ、 び、 し 」

 

三音みおとだけ のミうた
*

きのう
爪 を 切った

 

白い 弧 が
洗面台 の 縁 で
ふるえて ゐた

 

ひと、 と 呼ぶ に は
遠すぎた 誰か の
指 が
む か し
わたくし の 薄さ に
ふれた

 

その 指 も
いま ごろ
どこ か の 洗面台 で
白い 弧 を
落として ゐる の だ らう か

*

窓 を あけ
水 を 呑む

 

ペットボトル の
くぼみ に
わたくし の 指紋

 

朝 が
鳥 の こゑ で
ガラス を ぬらす

 

わたくし は
最後 の 乾いた 部分 を
小さく 破り
そこ に

 

「きょう は 出かけない」

 

と 書いて
流し に 捨てる

 

紙 は
排水口 で
ほどけて

 

川 に なれず
海 に ならず

 

ただ 下水 を
ゆるやか に
流れて ゆく
*

だれ か が
うしろ で
ささやこう と した が
声 は
風 に ならなかった

 

わたくし、 は
井戸 に

 

な れ な か っ た

 

の こ っ た

 

繊維 の
ちいさな かけら が
畳 の 目 の 奥 で
埃 と 混ざり

 

誰 に も 汲まれ ず に

 

光って ゐる

© 2026 無花果回 ( 2026年4月24日公開

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