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雌蕊、連祷

無花果回

プールの塩素、剃刀、ストッキング、スマホの予測変換——女子校の更衣室という〈男子禁制のハナゾノ〉に集う少女たちの、名づけえぬ視線と指先を描く。
〈みたい〉が〈なりたい〉へ翻訳される寸前の舌、雌蕊が雌蕊を呼ぶ声。
エロスを充溢ではなく、男性性が蒸発した一瞬の〈真空〉として定義し直す試み。
機械に矯正されながらも打ち直される〈うつくしい〉が、静かな連祷となって響く一篇。

タグ: #エロス詩 #口語自由詩 #詩

615文字

プールのあとの更衣室
塩素がまだ耳の奥にゐて
きみの肩甲骨に水滴が
ひとつぶ、ふたつぶ
落ちてゆくのを数へてゐた わたしは

 

ここは男子禁制
と誰かが戸のうちがはに書いた
ひるがへるスコートの襞
ナプキンのセロファンのちひさな破裂
あのこたちの笑ひ声がタイルに反響して
コトコトコトとぶつかり合ふ

 

〈わたしたちは植物である〉
と顧問の先生が言つた
〈光合成するのは皮膚ぢやなくて
粘膜のはうだよ〉

 

ユミが腋を剃つてゐる
カミソリの刃がひかる午後
アヤノはストッキングを脱いでゐる
つま先のかたちに汗がしみて
あなたはそれを見てゐた
まだ名前のつかない視線で
〈みたい〉がそのまま〈なりたい〉に
翻訳される寸前の舌

 

ハナゾノはなぜ禁制なのか
それは花が咲くからではなくて
花が咲いたあとのことを
わたしたちしか知らないからだ

 

果肉がくづれてゆく音
雌蕊が雌蕊を呼ぶこゑ
めしべめしべめしべと
国語のノートに書き写す放課後

 

夜、布団のなかで
きみの指の節をおもひだす
それはおもひだすのではなく
呼び出してゐるのだと

 

うち、うちがは、うつくしい
と打つとき
スマートフォンの予測変換は
何度も〈美しい〉にひたむきで
わたしはそのたびに消して
また、うつくしい、と打ち直す

 

男子禁制のハナゾノ
それは子宮のことでも
女子校のことでも
宝塚のことでもなくて
わたしがきみの首筋に指をあてた
あのコンマ数秒
世界から男が消えた

 

真空

© 2026 無花果回 ( 2026年4月19日公開

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