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ちちのみの街

無花果回

ぬくい、ぬくい、しか おもひだせない――そんな指先の記憶を、いま一度ひらいてみたい人へ。摩天楼を「ちぶさ」と訓み、蛍光燈に「ホシノナミダ」とふりがなを振る、字種のずれだけで都市と母性をひとつの語面に重ね書きした一篇。乳を捨てて、死ぬのではなく、孵るのだとしたら――殻の割れる微かな音に、しばし耳を澄ませてみてください。

タグ: #詩

403文字

ゆふぐれ
街並が しろく ふくらんで
摩天楼ちぶさの あひだから
うぶごゑが ひとつ おちて
ガラスに あたって くだけた

 

ちひさい ゆびが
ちひさい ゆびを にぎってゐた
ぬくい、 ぬくい、 しか
おもひだせない

 

エスカレーター の あたたかい背に
のせられて のぼってゆく
かげの 舞 に ぬくみは うすまり
ちぶさは ガラスに なり
ガラスは あをばかりを うつした

 

舗道に
こぼれた しろい 街灯あかり
ひろふ手は なく
すゝり泣くやうに
じッと 街は ぬれてゐる

 

蛍光燈ホシノナミダ
ちらちらと
夜の ちぶさを
吸ってゐる

 

うぶごゑは ガラスに くだけ
うぶごゑは 自動扉に すひこまれ
うぶごゑは
もう だれのもの でも なくなった

 

街は ふくらみ
街は しぼみ
街は だれの 母でも なく
だれの こども でも なくなって

 

あゝ 甘乳あまちちを すてて
かへる、 と いふこと

 

ぬくい、 ぬくい、 しか
おもひだせない 指の
その ぬくみ の まゝ

 

うぶごゑ ばかりが
なみだ の やうに
舗道に たまってゆく

© 2026 無花果回 ( 2026年5月7日公開

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