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化粧声

無花果回

祝祭の声は、いつから祈りを越えて、誰かを送り出すための声になったのか。
『化粧声』は、紅を引かれたことば、千人針を縫う母たちの手、そして「わたしの名」を呼ぶはずだった母音の震えを通して、やさしさと動員、祝福と喪失が反転する瞬間に立ち会う一篇である。

タグ: #反戦詩 #詩

詩

389文字

きみが
聲こゑに紅を引いた朝
わたしは まだ ちひさく
「ばんざゐ」と

 

きみの口から
萬よろづの歳が
こぼれおちて
誰かの掌に 砕けた

 

ホ・マ・レ
ホ・マ・レ

 

舌のうへで
塩のやうにとけて
やがて 海になつてゆく音

 

紅くれなゐ──
血くれなゐ──

セ・ン・ニ・ン・ハ・リ

 

白い布のうへ
針が とほる

 

ははの背後に ははがゐて
そのまた背後に ははがゐて
鏡のおくまで
ははだけが 並んでゐた

 

ははの 母音ぼいん──
あ、と ひらく喉のおくに
うすく
化粧が
施されてゆく

 

「征きてかへれ」
「征きて還らず」と

きみは 言ひかへた

 

ねえ きみ
今もまた
誰かが
きみの聲に
紅を 塗らうとしてゐる

 

その手は
やさしくて
きみの てのひらに
そつくりだ

 

そして
わたしの てのひらにも

 

きみよ
落としてほしい
あかぎれた
ふるへる
ははの 母音で

 

もういちど
わたしの名を
呼んでほしい

© 2026 無花果回 ( 2026年5月5日公開 )

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