日常。(51)

日常。(第44話)

mina

小説

1,337文字

お父さんが死んだ
高齢だし末期の食道癌で、もう手術や抗がん剤、放射線治療も出来ない状態だったから…最期の方はただただ苦しむお父さんや寝たきりのお父さんを見守るだけだった
残り少ないお父さんの人生は病院のベッドの上で寝たり起きたりするという毎日だった
「 … 」
私はけっこう前から介護が必要になったお父さんの面倒を看ていたので、ちょっと複雑な気持ちだった
私が風俗の仕事を始めたのも両親、家計を助けるためというのがあった
もちろんそれだけではないけれど、それも1つの理由だった
「 … 」
解放されるという気持ちと何ともいえない哀しさというか、虚しさというか…そんな気持ちでいっぱいだった

         ・          

仕事中、お客様が来るのを待っている間、同僚たちにその話をすると
「私も旦那養ってるわよ」
「そんなこと言ったら私もそう、子供3人いるし…」
みんな同じような境遇だったってことにびっくりした
「1番お金がかかるのはやっぱり“養う”ってことよね~」
「養う?」
「そう!ヒト1人養うのが1番お金かかるのよ~」
「ブランドのバックとかさ、洋服よりもお金かかるのよねぇ~」
「そっか、確かに」
「ね、だからさアンタも元気出しなさいよ」
「 … 」
「親は先に死ぬもんだし、今からは自分のために生きてもいいんじゃないの?」
「そっか、そうだよね」
同僚たちに話して少しスッキリしたような気がした
同じような境遇の人たちがいるってだけで何だか嬉しかった
私だけじゃないんだっていう安心感は私をちょっとだけラクにしてくれた

         ・          

「そう、お父さん亡くなっちゃったんだ」
「そうなんです」
「…正直、背負ってる荷物が少し軽くなったんじゃない?」
「 … 」
「キミがこの仕事してる理由もそこにあったりするんでしょ?」
「 … 」
このお客様とは長いお付き合いで、優しくてイイ人なはずなのに…何でそんなことを言うんだろうって思ってた
「僕はね、キミのことが好きなんだよ」
「 ? 」
「だからね、僕はキミのことしか考えてないんだ」
「はい…?」
「キミにとって明らかにお父さんという存在はマイナスだった」
「 … 」
「だから僕にとってキミのお父さんが亡くなったということは、キミの負担が少なくなるということだから…」
「 … 」
「喜ばしいことなんだ」
何でこの人はこんなこと言うんだろう?私にとってお父さんが死んだということは…悲しくて寂しいことなのに、悲しくて、寂しいことのはずなのに…
「泣いた顔も可愛いね、今日もいっぱい可愛がってあげるよ」
お客様は私の泣き顔に興奮したみたいで、いつもより激しく、いつものように優しく私を責めてきた
「あっ…」
「ココ、気持ちいい?」
「はい」
気持ちいいけど…気持ちよくなっていいのかなって思った
「…いいんだよ、もう」
「えっ…」
「これからは自分のために生きなさい」
「 … 」
「ほら、もっと自分を解放して」
「でも…」
「大丈夫だから」

「あっ…」

本当は誰かにそう言ってもらいたかったのかも知れない
私は自分を解放して、果てた

                end

2015年6月1日公開

作品集『日常。』第44話 (全70話)

© 2015 mina

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