わんだぁ★ツチノコ

曾根崎十三

小説

1,953文字

イグBFC4応募作品。「自分がアホであると思うもの」
童話みたいなテイストで仕上げました。

大流行ゲーム「わんだぁ★ツチノコ」。そう、子供を中心にシンプルなルールで老若男女問わずバカウケ中のあのゲーム。LINEスタンプの人気ランキングもツチノコが独占している。類似品で「まーべらす★プラナリア」も出てそこそこ流行ったが、すぐ下火になった。誰もが知っているあのゲーム。入れていないと時代遅れと言われ誰かしらにインストールさせられるあのゲーム。ツチノコを撫でると強くなり、立ち上がったツチノコを撫でると出てくる白い粘液で戦わせるあのゲーム。ツチノコが口から白い粘液を飛ばす様がシュールだと子供に大ウケしている。

しかし、私は思う。あのゲームはR-18だ。アダルトゲームだ。何とは言わないがツチノコは暗喩だ。何なら発案者のブツをかたどったものかもしれない。妙に歪で生々しい形だ。おかしい。ずっと思っていた。すごく卑猥だ。絶対卑猥だ。何人かの友達にやんわりと「これって下ネタじゃないかな」言ったら「心が汚れてる」と笑われた。いや、絶対おかしい。ファンタジーでよくある善人面をした支配者が実は悪人だと気づいている数少ない主役サイドの気持ちだ。ググッてもTwitterで検索しても、ふんわりとしか同じ意見の人が見つからない。ごく稀に「あれってすごく卑猥なゲームじゃない? 私の心が汚れてるのかな」というツイートや、「卑猥なゲームだと言われたんですけど、どこがですか?」というYahoo!知恵袋に「分からない方はそのままで楽しんで欲しいです」というベストアンサーがついていた。分かってやっているのでは。でも、私の身の回りにはそんな人は存在しない。近所の子供もツチノコのぬいぐるみをなでなでしている。女子高生の鞄には当然のようにツチノコキーホルダーがある。男なら分かるのではと思い、男友達にも何人か言ってみたが女友達と同じような反応で笑われてしまった。ツイフェミですら口をつぐんでいる。まさか本当に誰も気付いていないのか。このドスケベツチノコに。

調べ回っていると、このゲームの発案者であるMango69氏のインタビュー記事が見つかったが、下ネタの一つも発さず終始大まじめに語っていた。片っ端から記事についたコメントを見ていると「Mango69氏は以前から暗喩的エロスを含む作品を作っていたので、そこがまた良い」というものがあった。しかも異なるアカウント名で複数。つまり、Mango69氏のそういう側面を知りながら応援している層も一定数いる。というか、作者はわかっていてやっている可能性が高い。とんでもない変態だ。世の中の老若男女に笑顔でモノを撫でさせるドスケベ変態野郎だ。男か女かも公表していないので淫乱ドスケベアマかもしれない。しかし、作者のそういった側面を理解している層は絶対にいるはずなのにリアルでいくら探しても見つからない。探し方が悪いのか。ないしは、これは暗黙のルールで口にしてしまう私が無粋なのかもしれない。気付いている、分かっている人間は隠れキリシタンの如く息を潜めなければならないのだろうか。

ツチノコの人気は凄まじく、市町村のコラボまで始まり、男子学生までツチノコのボールチェーン付きぬいぐるみを平気な顔で鞄や、果てにはズボンのベルト部分に付けているのを見かけるようになった。駅前のイベントでツチノコのきぐるみが歩き回り、幼子に抱きつかれている。異常だ。どうして露出狂が逮捕されるのにこれは猥褻物陳列罪に問われないのか。決して私はツチノコが迫害されて欲しいわけではない。フェミに叩かれて配信停止になって謝罪文をあげてほしいわけでもない。ただこれはどう見ても卑猥なのだ。それを認めて欲しいだけなのだ。

今日もきぐるみのツチノコが町の人々に手を振っている。あんな卑猥な奴がさながらディズニーランドのミッキーのようにグリーティングに行列を作られている。

ベンチでストゼロを飲んでいるおっさんがそれを眺めていた。このおっさんもツチノコが好きなのだろうか。ツチノコかわいい、とでも言うのだろうか。

「絶対チンコやん」

大きな声ではなかったが確かにおっさんは言った。そうだ。私以外にもいたのだ。

安心したのも束の間、おっさんは立ち上がり、今度はツチノコの着ぐるみを指差して言った。

「絶対チンコやん!」

デカい声だった。皆おっさんの声にぴたりと動きを止めたが、おずおずとツチノコとおっさんを交互に見て気まずそうに目をそらした。その反応を見て、私は「皆気付いているのだ」と知った。あの時だってそうだった。「わんだぁ★ツチノコ」を下ネタだと言った時、友人たちは一様に「心が汚れている」と言った。つまり皆まで説明しなくても伝わったのだ。分かっているのだ。

「絶対チンコやん!」

おっさんはボロンと自分のブツを出した。駅前が悲鳴で包まれた。

2023年10月27日公開

© 2023 曾根崎十三

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