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闘争にカモメ

犬江目彦

闘争について書いていたら、サイボーグ戦士の話になりました。008は好きなキャラクターです。

小説

2,303文字

青い空の下を白いカモメが飛んでいる。風は穏やかで遠くまで広がる海も青い。砂浜は白く浅瀬には鮮やかな色の珊瑚礁が見える。その一部だけ色がない。

砂浜にヘルメットをかぶった三十人ほどの集団がいる。向かい合う形で機動隊員が百人以上、盾を持って整然と並ぶ。その後方に立入禁止の黄色いテープが張り巡らされている。テープを隔てた浅瀬は土砂で覆われ、その先に鉄骨の台が組まれ掘削機がある。

反対派のヘルメットたちが機動隊に向かって叫ぶ。叫びというより怒声に近い。機動隊員は無表情で反対派と目を合わせないよう視線を下に向けている。よく見ると何人の頬がひくついている。反対派が少しずつ前に出て機動隊員が盾を持つ手に力を入れる。反対派は体が触れそうなくらいまで近づき、顔を寄せて叫ぶ。その顔は日に焼けて黒く、生魚を食べて息が生臭い。反対派が叫び機動隊員の顔に唾がかかる。一人が顔を横に背けて小さく呟く。

「この土人が」

怒声が止み、反対派が動きを止める。辺りは静まり返り、蠅が反対派の顔の周囲を飛び回る。黒い瞳が蠅を追って動く。蠅は太い眉毛に止まる。反対派の口角が上がって笑うような表情になる。同時にあぁーーーっと叫び声が上がる。それを合図に反対派が一斉に前に出る。機動隊員が盾を構えるが押されて後ろに下がる。後方の機動隊員が肩を組んで押し返す。動きが止まる。機動隊が一歩二歩と前に出る。反対派が後ろに下がり出す。

先頭の反対派が足を蹴られて膝をつく。機動隊が一気に前に出て反対派が何人も倒れる。機動隊員が倒れた体を蹴る。助けようとする反対派は盾に阻まれて倒れる。

反対派の中から体の大きな男が現れる。長髪で額は禿げあがり口髭を生やしている。プロレスラーのローラン・ボックに似ている。ボックは機動隊員を掴んで倒し、倒れた仲間の腕を取って立ち上がらせる。機動隊員がボックの背中を警棒で殴る。しかしボックには効かない。振り向きざまにひじ打ちを食らわし、顔を掌ではたいて倒す。

後方から黄色い手ぬぐいを首に巻いた男が走って来る。男は揉み合いの間を擦り抜けていく。機動隊員が止めようと駆け寄るが左右にステップを踏んでかわし、機動隊の後方に走り出る。

「ピュンマが出たぞ!」

叫び声が上がり、皆が一斉に後方を見る。ピュンマの肌は黒く、砂を蹴って軽やかに走る。機動隊員が追うが砂に足を取られて差は広がっていく。ピュンマは立入禁止テープを飛び越えて浅瀬に入る。その先に掘削機がある。反対派が歓声を上げる。走る足元は死にかけて白くなった珊瑚礁で、駆け抜けた後に欠片が水に白く滲む。

ピュンマが台に辿り付く。工具を取り出して足場の止め具を緩めていく。足場の一部が外れて長い鋼の棒になる。

ピュンマは棒を持って台に這い上がる。巨大な掘削機の内側で杭が上下に動き、水中の岩盤を砕いている。ピュンマが杭を鋼の棒で叩く。鈍い音が響き杭の周囲に白い波が立つ。ピュンマは何度も杭を叩く。

後方では機動隊員が台に到着している。ピュンマは棒を杭の横に突っ込む。ガギッと鉄が噛み合う音がして杭の動きが鈍くなる。ピュンマが鉄棒を押し込む。

ガギッ、ガ、ギ、ガ、ギ。

杭の動きが更に鈍くなる。機動隊員が台に乗って背後から走り寄る。

ガ、ギ、ガ、ギ、ガ・・・ギ・・・・・・。

杭の動きが止まる。機動隊員が後ろから掴みかかるがピュンマは棒を離さない。

ガッ・・ガッ・・ガッ・・ガッ・・。

杭を動かすモーターが空回りする。足場が揺れて機動隊員が杭を見る。

ガガガガッ、ガガッ・・・・・・ガガガガガガガガガガガガガガガガッ。

杭が動き出し足場が上下に大きく揺れる。水飛沫が高く跳ね上がって顔にかかる。機動隊員がピュンマから手を離すのと、鋼の棒が杭に巻き込まるのが同時だった。棒が大きく縦に振れピュンマの体が跳ね飛ばされる。ピュンマは宙に舞い上がり、黄色い手ぬぐいが青い空と太陽の下ではためく。眩しそうに眼を細めて見る機動隊員の顔に蠅が止まっている。体は砂浜まで飛んで叩きつけられる。ぐしゃっと音が響き、機動隊員の顔に止まった蠅が飛び立つ。

ピュンマは倒れて動かない。口から血が流れ目を開いたまま瞬きをせず、左足の踵は逆方向に曲がっている。

砂浜の機動隊員も反対派も動きを止めてピュンマを見る。砂浜はじりじりと熱く熱気が上がっている。機動隊員数人が弾け飛ぶように倒れ、大柄な男が現れる。ローラン・ボックだ。ボックはピュンマに走り寄って抱き起こす。ピュンマの手が力なく垂れ下がる。ボックは立ち上がって周囲を見渡す。機動隊員が盾を手にしてにじり寄ってくる。一人の機動隊員が前に倒れる。反対派が足にしがみついている。他も同じように足を取られ、次々と倒れていく。

ボックがピュンマを背負って走り出す。あいつだけは逃がすな。機動隊員が叫ぶ。数人が掴みかかるが弾き飛ばされる。足を掴まれた機動隊員は反対派の頭や腹を蹴る。鼻血が流れ骨が折れるが反対派は離さない。

ボックは砂浜を走る。ピュンマの手と足はぶらぶらと揺れ、耳元からぐふぐふと唸る声が聞こえる。死ぬなよとボックが呟く。

青い空の下を白いカモメが飛んでいる。人を背負って走る人間と砂浜に転がって踏みつけられる人間たちが見える。カモメは風に乗って高く舞い上がり、大きく旋回して方向を変える。みゃあと鳴き声を上げ、目を海の向こうの空に向ける。

目の周りが赤く覆われ嘴には黄色と黒の模様がありその先は赤い。カモメではなく海猫のものだ。カモメと海猫は見た目が似て区別がつきにくい。カモメは渡り鳥で冬に日本全国に飛来するが、海猫は一年中日本の各地で見られる。どちらも沖縄で見ることはあまりない。

© 2026 犬江目彦 ( 2026年6月13日公開

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