気持ちが悪いんだ
君は確かにソコにいて、僕の手を握ってくるから…
僕が今ココにいるって、確認出来るんだけど
だけどそれって、僕にとってはやっぱり気持ち悪い事なんだ
「また書き込まれてる…」
お店のホームページの掲示板に同じ曜日、同じ時間で書き込まれる、私宛てのメッセージ
「今度は黒のタイトスカートと白のワイシャツを着て、僕の顔をそのキミの舌を使って、舐め回して欲しいんだ」
「 … 」
「キミは僕の髪の毛を鷲掴みにして、濃厚なディープキスを僕にしてくれるんだ」
最近は彼からのメッセージを読むのが、楽しくなってきていた
「ふーん、今度はS女かぁ」
「キミの唾液が僕の口から体内に入っていく、僕の中にキミが入ってくる」
彼は掲示板で私と会話してから、同じ曜日の同じ時間にお店に来店する
一緒にいる時間、彼は一切喋らず、私とのプレイに没頭する
「 … 」
私は彼がくれたメッセージ通りの女を演じる
「ハァ…ハァ…」
聞こえてくるのは彼の息遣いだけで、彼は私に喋りかけない、私も彼に喋りかけない
「 … 」
彼はココにいる私じゃなくて、違う誰かを、違う女性を抱いているように見える
「ねぇ…?」
「 … 」
私はココにいる彼に話しかけてみた
「ねぇ…聞いてる?」
「 … 」
彼は押し黙ったままだった
私はプレイを続けた
彼は私を見ようとしない、私の目を見ない、私を…
・
「黒のストッキングを穿いたキミに僕は興奮して、キミの脚を触りまくる」
「 … 」
彼からの新しいメッセージだった
「ミュールを脱がせて、キミのその足の指を僕は舐め回す」
いつもと変わらない、彼からのメッセージを読んでいたら…涙が出てきた
「あれ?なんで…」
自分でも訳が解らなくて、困惑した
「…最後にキミは僕の手を握りしめた」
泣きながら読んだ彼からのメッセージの最後にはそう書いてあった
2日後には彼がお店に来る
私はいつものように彼の望みどおりの女を演じ切れるのだろうか
「ハァ…ハァ…」
聞こえてくる彼の息遣い
メッセージ通りに私の脚を触り、ミュールを脱がせ、私の足の指を舐める
「んっ…」
私は足の指を舐められるのが弱くて、思わず声を出してしまった
「 … 」
彼の息遣いが止んだ
彼が私の方を見た
「あっ…ごめんなさい」
私が思わず、そう言うと彼はまたプレイに没頭し始めた
「ハァ…ハァ…」
私は泣きそうだった、泣き叫びたかった
「ハァ…ハァ…」
彼の息遣いがやたら耳につく
「 … 」
彼の動きが止まった
私の頭の中に『…最後にキミは僕の手を握りしめた』というメッセージが浮かんだ
「あ…」
私は彼の手を力一杯握りしめた
彼は一言、私にこう言った
「ありがとう」
初めて私の目を見て、そう言ったのだ
私は彼の手を握りしめながら、泣いてしまった
それが彼との最後だった
その日以来、彼は私にメッセージを送って来なくなった
「 … 」
私はお店のホームページの掲示板を開くたびに濡れている自分がいる事に気づいた
end
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