ジョーとは小学生のときに出会った。
運動会の徒競走で一緒に走ったのがきっかけだった。ジョーは足が速いとクラスメイトから聞かされていたが、それほどでもなかった。こんなものかと思い、それから仲良くなった。
俺らは小学生らしく、取り立ててやることもなかった。放課後は一緒に自転車で街を駆けまわり、暇つぶしになりそうなものを探しによく出かけた。
両手に余るほど時間を持て余した夏休みに、ジョーのマンションの屋上によじ登った。
屋上から見る空は近く、心地よい風が吹き抜けていた。太陽の光は目を覆うほど白く、気が遠くなるくらい暑かったが、いい気持ちだった。
雨風で薄汚れて灰色にくすんだ床に寝そべり、目が覚めるような青空をジョーと一緒に眺めたことを覚えている。世界に俺ら二人しかいないような気分だった。
屋上ではビー玉を発射するおもちゃ――ビーダマン・バトルフェニックス――でよく遊んだ。勢いよく弾き出されたビー玉たちは、かちん、かちんと小気味よい音を立てて排水溝に転がり込み、遠慮のない青空を球体の表面に映して煌めいた。
俺らより、ふたまわりほど身体が大きな中学生に公園で小馬鹿にされて、果敢に挑むもひどい目にあわされたこともある。二人して傷だらけになって、泣きながらジョーの家に帰ったことも覚えている。
数えきれないほどの犬と一緒に、公園で生活しているホームレスの老人に慰められた。老人は俺らにドッグフードを食べさせてくれようとしたが、さすがに断った。
「ドッグフードはいいからさ、さっき俺らがぼこぼこにされてたときに、助けてくれたらよかったじゃん」ジョーは涙と泥でぐちゃぐちゃになった頬を擦りながら言った。「大人なんだから」
「助けられるくらいだったら、こんなところに住んでいないさ」
それもそうだと思った。
空っぽになった段ボール箱をぺしゃんこにするみたいに、俺らを捻り潰した中学生は同級生の女の兄貴だった。身のほど知らずの負け犬として、俺ら二人は小学校で嘲笑の的になった。
我慢ならないことに立ち向かっただけで勇気ある行為だ、なかなかできることじゃないんだと、ジョーと肩を組んで讃えあった。二人でなるべく気にしないようにして過ごした。
中学に入って初めてジョーと同じクラスになった。
中学は荒れ果てていた。常にクラスメイトの三分の一くらいが不登校で、いつだって学級閉鎖一歩手前だった。
大半の授業は体を成していなかった。週に一回のペースで、若い女の教員は新鮮な涙で頬を濡らした。
サッカー部では、人間を使った的当てPK大会が連日開催された。後輩が的で、顔面か股間に当たるとハイスコアだ。よけたり、ガードをすることはもちろん許されない。
野球部は単なるバッティングセンター状態で、バスケ部では後輩が先輩に華を持たせる接待ワン・オン・ワンが流行っていた。
水泳部の更衣室からは饐えた匂いがしたし、水泳部に関係がない人間も頻繁に出入りをして、怪しげな振動と音をたてていた。
誰もろくに掃除をしない教室や廊下はいつも埃っぽくて、トイレからはなんだかよくわからない匂いがした。床のところどころに手ごわそうな黒いカビがこびりついていた。
たまに他校の生徒がやって来た。殴り込みというやつだった。
濡れた手をふいたペーパータオルをゴミ箱に投げ捨てるように、ごく自然に窓ガラスが割られ、日の光をあびて煌めきながら飛び散った。
生活指導の教員が止めに行ったがビッグスクーターに勢いよくはねられて、糸引きコマのように回転して宙を舞った。
あるときジョーがいじめられた。
俺はジョーのいじめには加担しないと、はっきりと言ってやった。
しかし、いじめを止めはしなかった。止めようと思っていじめを止められるものならば、悲しい出来事はこの世界からほとんどなくなってしまうかもしれない。地球上から台風と地震がなくなってしまうみたいに。
みんなジョーを無視したが、俺はしなかった。ジョーと二人でいつも過ごした。
旧校舎と、考えもなしに無理やり増設された新校舎の狭間にできた、人目につかない小さな三角地帯で過ごすことが多かった。
居場所がない二匹の野良猫みたいなものだった。ソフトテニス部からくすねたテニスボールでよくキャッチボールをして時間をつぶした。
「今日の帰り道はどのルートで帰ろうか?」俺はテニスボールを山なりに投げた。
受け取ったテニスボールをジョーは真上に向かって力強く投げた。「そのときの気分次第さ」
テニスボールは旧校舎と新校舎の壁や窓にぶつかりながら高くまで駆け登り、限界に達すると空中で短く静止した。すぐに引力に引かれて、またもや壁や窓にぶつかりながら、気の抜けた稲妻のようにジグザグと地面に落ちてきた。
その時期、俺らはだいたい二人で過ごした。
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