B級探偵 異能清春の冒険「遥かなる牛すじフライ麺」

B級探偵(第2話)

消雲堂

小説

10,971文字

鎌ヶ谷大仏駅前の「嵐」という中華料理屋の前にランチメニューが出ていて、”牛すじフライ麺”という料理名に目が止まった。なんじゃこりゃ? 牛すじ肉をフライにしてラーメンか何かの上に乗せてある?

なんて考えたら、ものすごく食べたくなって店内に入った。その前に乗ってきた自転車を店の前に停めていいかどうかを確認してから中に入ったのである。

「すいません、牛すじフライ麺ってなんですか?」と聞くと「揚げ麺の上に牛すじと野菜の餡をかけた麺ですよ」と中国人らしき女性が答える。

正直がっかりした。僕は餡かけというのがどうも苦手なのだ。特に中華丼は食べられない。みたらし団子の餡が白飯に乗ってたら気持ち悪いじゃん…。牛すじ肉のフライが麺に乗っている方が「パーコー麺」み
たいで美味そうだろうと思ったのだ。

聞いたついでだから注文してみることにした。揚げ麺に餡が乗ってるぐらい食べられるだろうと思ったからだ。

注文してから料理が出てくるまでに結構時間がかかった。フライ麺が出てくる前にテーブルの上にドンと置かれたのはビールのような「ジャスミン茶」ジョッキだった。知らない人が見たらビールのように見え
るだろう。

しばらくしてやってきた「牛すじフライ麺」は真っ黒な韓国ジャージャー麺のようだった。小ライスに酢漬けに杏仁豆腐が付いている。

このライスが余計だった。中華丼嫌いの僕は、この牛すじフライ麺をおかずに食べることができないと思ったからだ。しかし、残すわけにはいかない。貧乏になってからたべものを残すことは渡部夫妻には禁じ
られているのだ。

仕方がない。コイツも食ってやる。揚げ麺を全部食べてから餡の中の牛すじと野菜をおかずにご飯を食べればいいのだ。

揚げ麺と餡が合体した味は見事だった。コクのある餡はピリ辛で、たっぷりの牛すじと野菜が絶妙にからんでカリカリの揚げ麺によく合うのだ。

ガリガリと麺を噛み砕きながら餡と一緒に飲み込む。辛味が喉に引っかかって不覚にも咳き込んでしまった。水とジャスミン茶を交互に喉の中に注入して辛味成分を洗い流しながら、白飯もついでにとがばがば
と口中に掻き込んだ。

 

2.

 

さて、今日は千葉市にある焼肉店「大将軍」で昼食であった。千葉市に構えられた某党の選挙事務所までボランティアとして通っていた際に、凄く気になっていた店なのだ。外観は古色蒼然とした古城のようで、夜な夜な吸血鬼やオオカミ男なんかがパーティを開催しているような建物である。しかし…この建物、どこかで見た記憶が…。

焼肉を食べるというのは、なかなかに難しい。何が難しいって肉の量とご飯の量の食配分が難しいのだ。うーん、何度も言ったと思うけれども(誰に?)牛丼の牛肉とご飯の食配分と同じくらいに難しいのだ。

肉が余ってもご飯が余っても悲しくなるではないか?

肉が余れば、主食(焼肉店の主食は肉である)の肉の味を楽しめばよろしい。しかし、ご飯だけが残ってはいけない。肉がなければ追加注文して肉を増やせばよろしい? そんなの無理じゃん? もともと金がないのに無理して焼肉を食べに来ているというのに肉の追加など僕が死んだあとに保険金が入ったかみさんにしかできない芸当だ。

中略…さて、注文した肉がやってきた。

かみさんには特上カルビに同ロースセットを、僕はランチの普通のカルビとロースセット。しかし、見るがいい。値段の差はあっても肉の数は同じ…たった6枚である。いいのか? それでいいのか? 僕はご飯を大盛りで注文してしまった。僕は少食で普段はご飯を食べないほどだが、たまのサムタイムの焼肉だ。しかも千葉焼肉の殿堂「大将軍」の焼肉だぞ。大盛りご飯を注文したのにはワケがある。こないだの安楽亭とはちょいとだけレベルアップな肉なのであるから、きっと美味いに違いない分、ご飯も多めに食べられると思ったからである。しかし、これでは肉が少なすぎる。ご飯が余るのは明白である。

仕方がないから僕は少ない肉と大盛りのご飯に見合うような食べ方を考えた。その方法としてはいくつかあるので以下に挙げてみる。

①肉1枚をいくつかに分割譲渡して食べる方法(1枚の肉を3分割し3口のご飯を食べる方法)

②ランチセットには、野菜サラダとこれまた少数のキムチとナムルが付属しているからこれで「肉食たまにはベジタリアン」風に自分をごまかしながらご飯を食べる方法

③肉とご飯を同量ほどに食し、余ったご飯を付属のスープにぶち込んで雑炊風にかっ込む方法

僕はすこぶるノーマルな①の方法をとることにした。無難でございます。

ところが、肉をナマナマに半焼きしてからポイッて頬張って、それを前歯でちょいとアマガミすると上等な肉なのかジュンジュワーーンと豊かな肉汁が口中に広がっちゃったのである。これは意外だった。そこで僕は方針転換した。肉を1枚食べる、ご飯をひとくち食べる、口中に肉汁が広がった余韻でもうひとくちご飯を頬張ってカミカミしちゃうという書いてないけど④の方法に切り替えたのである。これはいかん遺憾に思うよ。愛国を口にして実は売国奴だったというほどの方針転換である。でもこれでいいのである。肉を1枚食べる、ご飯をひとくち食べる、口中に肉汁が広がった余韻でもうひとくちご飯を頬張ってカミカミ…以下コピペで…肉を1枚食べる、ご飯をひとくち食べる、口中に肉汁が広がった余韻でもうひとくちご飯を頬張ってカミカミ…肉を1枚食べる、ご飯をひとくち食べる、口中に肉汁が広がった余韻でもうひとくちご飯を頬張ってカミカミ…。

この方法で僕は至福のひとときを過ごせたのであるが、実を言うと、かみさんのセットには野菜がついているので「あたしは野菜があるから、あんた、あたしの肉1枚だけ食っていいよ」というお許しが出たので、彼女の肉を1枚余分に食しているのである。だから肉もご飯も存分に堪能できたというわけである。

食後のデザート…セットにはマンゴープディングと烏龍茶(それぞれ好きなソフトドリンクを発注してね)が添付されているので、食後のデザートな至福のひとときを過ごせちゃったのである。

そういえば、どこかで見た記憶があると思ったら、昔、会社の同僚女性が披露宴を行った会場であったことをムシャムシャクチャクチャ食ってるときに気がついた。以前はこの洋風な建物全体がおしゃれなレストランだったかビアホールだったか忘却しちゃったけど、確かにこここだった。精算時に「ここは元から焼肉屋さんだったのけ?」と伺ったら「いいえ、昔は地下の馬酔木(アシビ)さんだったんです。私たちは上の階をお借りしているんですよ」ああ、なるほど…あの同僚女性、佐倉で焼き鳥屋をやっていたが火事で全焼させてから京都のマルチ商法企業に勤務したと聞いているが、どうしてるかなぁ?

 

3.

 

船橋ってのは珍食の巣窟です。ソースラーメンなんてのはその最たるものですが、これは船橋非公認キャラのふなっしーのようなもので、良いんだか悪いんだか判別ができぬものです。

その船橋には「以前から気になっていた店」ってのが多いのです。んで、実際に入ってみると”失敗しちゃった”ってなことが多いのです。

こないだのあまからやや、ここで紹介してないけど北口にある「牛すじラーメンのしんざん」なんてのは、「気になっていた→入ってみた→失敗した」という例です。

でもね、大衆食堂ってのは味じゃない、味よりもその店の雰囲気が面白いから許すという店が僕の好みです。うまけりゃもっといいですが、貧乏人の味音痴ですから正しい評価はできませぬ。

今回は北口にある天ぷらの松島です。ここも以前から気になっていた店で、その佇まいと西陽が当たった光と影が被写体として最高なのです。

松島は看板というか日除けなのかわからない部分に大きく「天ぷら 松島」と書いてあるのですが、本当に天ぷら屋なのかどうか怪しい変な空気に包まれています。おまけにいつも閉まっているように見え、閉店してしまった店の廃屋なのかまったく見当がつきません。ところがある日の晩のこと、その松島に明かりが灯っており、店の前には数人のお客さんらしき人たちが並んでいるのです。

よく見ると店の内側には「天丼弁当500円」なんて張り紙(ビニール?)があります。「いかなるものかわからぬが500円とは安いではないか」と貧乏なくせに上から目線で言っちゃったりします。

さて、昨日のことです。千葉市でやや贅沢なる焼肉を食した僕たちは、船橋のシャポー内にあるクリーニング屋に立ち寄ったついでに北口をブラブラしちゃったのですが、シャポーの裏っかわから駅に向かうと件の松島が目にとまりました。店の中にはお客さんが数人。困ったことに「天丼弁当500円」が目に入っちゃいました。僕は「弁当買ってくるよ」とLineに夢中でスマホをいじっているかみさんを待たせて躊躇なく松島に入りました。店内は狭く、入口脇にはガラス製ウインドウがあって、中にはエビやら鱚やら野菜やらの天ぷらが標本のように並んでいます。

カウンターの中のおばさまに「天ぷら弁当2つください」と言うと「中身はあれだよ。中身を替えたければ選んでね」と壁を指さします。あれと指さす壁には「天ぷら弁当の基本内容写真」が貼ってあります。「え、何に替えてもいいんですか?」「いいよ」「ほんじゃ1個を、ピーマンをかぼちゃに替えてくださいな」「ご飯は大盛りにする?普通でいい?」「ほんじゃ1個を大盛りにしてください」「ピーマンとかぼちゃどっちの方?」「あ、ピーマンの方を大盛りにしてください」「いいよ。そこで座って待っててね」って言われてしばし待ちます。

店内を見渡すと狭いけれども「美味そうな匂い」が充満しています。カウンターの中では大きな天ぷら鍋でジュージューギャーギャー天ぷらを揚げている主人らしき男性。「ピーマンの方が大盛りだよ!」と先ほどのおばさまが若い男性に叫んでいます。「はぁい」若い男性は従順でです。多分家族でやっているのでしょうね。カウンターの中には若い女性もいるから若い男性の奥様なのかも?

そんなこんなで出来上がってきた天ぷら弁当を受け取ってLine好きなかみさんと一緒に帰宅。弁当につきものの蓋に水滴が付いて中身がべちょべちょになるのを避けようと蓋を開けてから…しばらくテーブルの上にうっちゃっておいたのです。そしたら、くだらないことでかみさんと口喧嘩して30分も経っちゃったのです。まだプンプンしながら弁当を食べるとまだ温かくて美味しいんでございます。残念ながら時間経過によってカリカリっていう揚げたての食感は味わえなかったけれども、天ぷら衣そのものに旨味があり、さらにご飯にかかっているタレがとても美味くて、昼にう焼肉で大盛りご飯食ったくせに、夕飯も大盛りご飯をペロリです。体重90キロは目前に迫っています。

 

4.

 

以前から気になっていた船橋の洋食屋「あまから屋」。何度かその前を通るのだけれど、入りにくい雰囲気なのである。なんだかかんだか閉鎖的なのである。っつうか”大人の店”っつう感じ。何か食べてみたかったけれど、やめるのである。だって…怖いんだもん。洋食屋って書いてあるんだから「オフコースAセット 19800円」なんて料理ばっかりだと思うじゃんw 貧乏人は牛丼食うのだって常にエブリディビクビクしてるんだぜ。

ほんで、今日はかみさんが職連校の卒業式なので、その後に待ち合わせるべということになってアタシも船橋までトトトトンと出かけちゃったのである。んで、船橋に着いてかみさんに電話(PHSナイスTEL)したら「あ、わりい、わりい…職連校の仲間と食事してから職安に寄っから、なんか食ってて…」と、いつになくガラの悪い言葉遣い…携帯が時代遅れなガラケーだからだろうか? まいいやっプンプンプン…ってんで、その勢いで「あまから屋」に入店しちゃったのである。

ドアを押し開けると…ゲゲ!そそ…そこは!

あまから屋に入店するなり驚いちゃった。びっくりだよ、ふんとにもう…。可愛いネエチャンに声かけて野太い声出された時以上にびっくらこいちゃった。だってアタイ心が原発の防潮堤以上に脆弱だからさ。

店内は紫煙がぷうーーーーーーーんと充満しちゃっててさ、おっさんおばちゃん連中がタバコふかしながらガッハッハハって大笑いしている。酔っぱらいだよこいつらら…。煙出すなよ、火つけるなよ…ジミヘンかおまいらは!って怒れるわけないので、座ろうとしたらこれが満席に近いんだよ。

んで、労務者風のおっさんの前がひとつだけ空いていたので、手を前方に振りながら「すんまへん」って関西人でもないのに、そんな風な言葉使っちゃって「よっこらしょい」と座るわけだよ。

座ってしばらくしても誰も注文とりに来ないしメニューは壁に貼ってある汚い経年変化した黄色い紙になぐり書きしたもんしかないし…焦っちゃったよ。輪番停電以上に暗い性格してるからさ。黄色い紙の文字を見ていくと「塩辛」「ひじき」「切干」に「らっきょう100円」「納豆100円」「ノリ佃煮100円」なーーて文字が並んでる中に、申し訳なさそうに「カツ煮」「半定食」なんて文字がやっとこさ見えるってわけよ。半定食って何だろ?って思ってよく見ると、横にライス、味噌汁って単品文字が並んでるから、多分、半分ライスに味噌汁にうつけ者じゃなかった漬物がセットされてるんだと思い描いちゃったわけですよ。

しょうがないから目に入った「カツ煮」と「半ご飯に味噌汁にうつけ者なお漬物の半定食」を組み合わせて注文しようと意を決したにも関わらず誰も注文取りに来ねぇんだよ。

しょうがねえから前のおっさんに「あのう…すみません…この店はどうやって注文すればよろしいんでしょうか?」なんて丁寧に聞いちゃったりなんかしちゃったりするわけだよ。

すると前のおっさん、コック帽かぶった店主らしいヨレヨレのおじいちゃんを指して「アレアレ」って言うのよ。ああ、おじいちゃんに注文すればいいんだなって理解して「すみませーーーーん!」「はいぃ?」「カツ煮の半定食をお願いします」「カレイの煮付けはありませんよ」「ん…聞こえないんだな。耳が九州の三池炭鉱あたりまで遠いんだな」って思って大声出して「違いますよ。カツ煮の半定食ですよっ!」って言うと「ああ、はいはい。おおおーーーい!カツ煮の半定食ぅ!」「ああーーーーい!」って奥で女性の声がする。しかも高齢者の女性の声だじょ…。

結局、昼から飲める普通の飲み屋だったんです。ほんじゃ洋食屋っちゅう看板に偽りありじゃねえかヽ(`Д´)ノコラ なんて抗議できません。だって、豆腐に頭をぶつけたら死んじゃうし、任期半ばで勝手に総理大臣辞めちゃうほどに身も心もアソコも弱いんですもん。

そうこうしているうちにカツ煮半定食がおばちゃんによって運ばれてきます。「あ、あなたが先ほど奥でご返事されていた女性でしたか?」と声に出さずにイメージの中で聞いてみる。「古い船を動かせるのは古い水夫じゃないだろう?」なんてイメージの詩を口ずさむことなく心の中で聞いてみる。

テーブルの上に表れ出でたるはカツ煮というよりも「ハムカツ煮」的な薄さの代物。「なんじゃこりゃぁ!」精神薄弱たる(肉が薄いというのを芸術的に表現しているだけじゃき)偽装形成肉のようだが、それも、あまりにも不味そうである。ペペペノペッペである。

で、一口食してみる。口中に放り込んでみる。モグモグモグンチョモグリンチョ「不味くはないけど美味くもない、ほんにあなたは屁のようじゃ」

カツ煮を頬張って、そこにご飯を放り込んでクチャクチャ噛んでみる。「うーん、うまく融合しないなぁ。こりゃ、酒のつまみなんだな。肴なんだな。判断を誤って酒の肴を発注しちゃったんだ」仕方がないから諦めて、口中にカツ煮を入れる、ご飯を投入、カツ煮を放り込んではご飯を放り込む。んで噛んじゃう。クチャクチャクッチャリクッチャンコ。カツ煮を食べる、ご飯を食べる、ご飯を食べずにカツ煮を食べない、カツ煮を食べずにご飯を食べるというように安楽亭焼肉食事法を活用してみるがうまくいかない。

はぁ~。あっという間にカツ煮もご飯もなくなったのでホッとため息をついてみる。あ!と気がつく。味噌汁を飲んでいない…飲んでいないだけでなく、汁の具は何者かも吾輩は確認しておらん。これはいかん。吾輩は拙者は僕は俺は私は遺憾に思うのだよ。で、味噌汁の中に箸を突っ込んで具は何ものなのかを確認すると、アサリの殻の中に小さな身が入っておる。そういえば総入れ歯、船橋は潮干狩りの名所であった。

アサリの身を箸でつまんで口の中に入れながらズズズと船橋港の潮の香りがする汁を啜って、硬くなった塩辛い胡瓜?の香の物をガリガリと齧りながら、マフラーを首に巻き、コートを着込んでからGパンのポケットから千円札1枚を出して席を立つ。「ごちそうさま」と言いながらコック帽の主人に「いくらすか?」と聞く。「750円だよ」「はい」と千円札をレジ台に置く。「この店、いつからやってるんですか?」「朝7時からやってるよ」「違います。時代です」「時代? もう20年になるよ」え、意外に短い。もっと古いオールディズかと思ってたよ。

「はいお釣り」「あ、ごちそうさまでした」店の外に出ると、まだ明るいのが嘘のよう。この錯覚は洋食屋に入ったかと思ったら飲み屋だったからに違いない。

 

5.

 

昨日の「あまから屋」のお客さんたちは常連さんのようでしたが、昼食を食べに来ているのは僕だけで、皆、昼間からお酒を飲んでバカな話をしていました。面白かったのはお年を召したお嬢様の3人連れ。

太った意地の悪そうなお嬢様が「あのさ、あなたはお嬢さん。あたしは庶民。もう我慢できない。もう辞める。あなたに金を返したら辞めるから…もう腹が立つ」と、それまで静かに話していたのにいきなり怒り出した。

すると痩せた美人っぽいお嬢様が「あたしは何も言ってないじゃない。あなたが勝手に思い込んでるだけ。あなたが悪事を働くときにはいっつも同じことを言うんだもの…」とお返しになる。

ってここまで来ると、売り言葉に買い言葉ってことになりますね。「何?あたしが悪事を働くって何よ? 腹が立つ…」って太ったお嬢様の怒りに拍車がかかります。

気になるもうひとりのお嬢様は、2人のお嬢様の間に入って仲裁するかと思いきや「そうよねお嬢様よね」「悪事を働いてるわよね」「腹が立つわよね」とどっちつかずの意見を繰り返しているので埒が開きません。

そのうちひとりのオジイ様が会計にお立ちになり、コック帽のお爺さん店主に怒りをぶつけ始めます。

「あのさ、俺はビール1本しか飲んでないんだよ。なんで2本って打つんだよ?」

「だって、明細に書いてあるんだもの」

「書いてあるって言っても1本は1本なんだよ」

「一緒にいたお客さんが飲んでたじゃないのかね?」

「俺はひとりで来てるんだよ。”さっきの男”は知らない人だよ。俺は1本しか飲んでないんだよ」

「うーん…そうなの?」

「そうだよ。打ち直しなよ。見張ってっからここで」

「おかしいなぁ~」

2人のやりとりを聞いていたおかみさんが近くまでやって来て様子を見ている。自分が付けた伝票だからだね。

店の表で1人のおっさんが笑ってる。記憶にないけど、”さっきの男”ってのはこいつか? もしかしたら会計進めてるオジイ様とグルでコック帽店主を詐欺っているのか? それにしてはビール1本とはあまりにもケチな詐欺だね。

一方で、さっきのお嬢様たちも小さな紛争を続けている。

「もうね、1万円を返してさ、あなたみたいなお嬢様とはもうつきあわない。もう、あったまきた」

「そうそう、頭にくるわよね」

「お金の問題じゃないんだよなぁ」

「そうそう、お金なんかどうでもいい」

なんだか面白いからずうっと聞いていたかったけど、かみさんと待ち合わせてるから、ここで店でちゃったんだよねぇ。面白い店でした。船橋あまから屋。店名もいいよね。あまからだもん。

 

6.

 

カルチャースクールの帰りにM党事務所でお手伝いをしようと立ち寄ったら昼時だった。んで、「先に昼食をとってきたら?」と言われたので、「ここらへんに変な食べ物を食べさせる食堂はないですか?」「変な食べ物?」「ははは、馬肉とか熊肉とか鹿肉なんかの料理とか、エチオピアとかスマトラとかマダガスカル料理なんかがメニューにある食堂です」「んなもんあるかい」「やっぱり・・・」「近くの安楽亭ならランチ580円でライス食べ放題だよ」「えええ、ご飯なんか昼からたらふく食べたくないですよ」「ジャポネのくせに罰当たりめ・・・」「でも、昼に安楽亭って面白そうだから行ってみますね」

と言って向かったのが、木下街道、旅籠屋丸屋近くの安楽亭だ。僕の目の前を太っちょ兄さん(俺もデブだけどね)が同じ方向に向かってホイホイって感じで歩いてる。多分、目的地は同じだろう。でなければあんな体型になるはずがない。

案の定、彼は安楽亭に入店してしたのだった。僕も後から入店して案内された席に座る。お、偶然目の前に先ほどの彼が座っている。580円ランチがメニューに見当たらない。

迷っていると、先ほどの太っちょ兄さんがスペシャルランチを発注したのが聞こえた。貧乏エリートな僕はわざわざ「580円ランチってどれ?」って聞くのも面倒だからと、「彼と同じのください」ってスペシャルランチメニュー「中落ちカルビランチ」を注文した。

中落ちカルビ肉100グラムとキムチにユッケジャンスープにデザートにドリンク付きってやつだ。メニューには「あれもこれも付いて満足確実」って印字されてるから多分大満足なんだろうなと期待に胸が膨らんじゃう。

「ライスおかわり自由ですから」と店員さんが言うけど、内蔵も気も小さいので多分おかわりをすることはないだろうな。

10分ほど時間省略して、スペシャルランチが運ばれてきた。肉少ないよね(´・ω・`)ガッカリ・・・んでも、ユッケジャンスープの量が凄い。これだけでお腹いっぱいになりそうである。貧乏性だから誰かに取られたり網の中に落下させたりしないように慎重に肉をジュウジュウ焼きながら、キムチでご飯を巻いて口中に放り込む。第一投…うーん…いきなりホームラン。キムチだけでもこのご飯一杯は食べれる。しまった…ご飯嫌いなはずなのに…。スープを啜ってご飯を頬張ってモグモグしながら肉をひっくり返す。もう一回スープを啜ってから金属箸で肉をひと切れつまみ上げて甘口タレにどっぷり浸けてから口中に放り込む。第二投…ホームラン!焼肉久々だから仕方がないよね(´;ω;`)なんでも美味く感じちゃうんだよ。

肉をひっくり返して少し焦げ目が付いたのでタレに浸け込んでおいてから、金属箸でスープのゼンマイとニラを掴んでまたまた口中に…これは2塁打…。グワリガリグチャガリって噛みながらご飯をつまんで、まだ噛みこなれていないゼンマイ&ニラに合体させる。口中フュージョンだ、スクエアだマライアだカシオペアだプリズムだ。

さきほどの太っちょ兄さんが店員さんを呼ぶ「ご飯おかわりください。大盛りで」すげー!大食いだね。って思いながら自分のご飯どんぶりを見るとご飯が残り少なくなっている。ありゃ?これはまずい。俺って意外に大食い? 肉もスープもキムチもいっぱい残ってるぞ…。今日は我慢しよう。ご飯がなくなったあとにゆっくりと肉とスープだけ食べればいいじゃん。

スープ啜って焼きあがった肉を頬張ってご飯食べてスープ啜って肉ひっくり返して焼きあがった肉をタレに浸けておいてキムチでご飯を巻いて頬張って肉食べて肉ひっくり返して肉食わないスープ飲まないスープ飲まないで肉食べる…。

余は満足して来た道を引き返すが、ちょいと息が臭いぞえ。

 

7.

 

鎌ケ谷「はな膳」です。かみさんが友人(40代独身女性)と久しぶりに会うというので僕も同伴しました。僕も知ってる方なのです。

んで、僕がその方に「大晦日に年越しそばを食べるために今日から朝夕カップヌードルなんだよ」って言ったら、同情してくれて奢ってくれたんです。

割とお手軽な値段のランチセットなのですが、海老3本に蓮根に獅子唐に冬至ならではの南瓜の天ぷらが乗った天丼は超美味しかったです。かみさんが食べれない牡蠣のお寿司も美味かったっす。

年下の女性に奢ってもらって平気な僕はバチが当たったのか獅子唐が唐辛子のように辛かった。でも、まぁ、そのくらいで済んだのです。

 

8.

 

荷風が最期に大黒屋さんのかつ丼を食べていたというのは有名な話です。僕が初めてこの店を訪れた時には彼の作品を1冊も読んだことがなかったから特に荷風に思い入れはなかったのです。でも、荷風が最期に食べたと言われているかつ丼がどうしても食べたいと思ったからブラリと京成八幡駅で降りて、大黒屋さんは駅前にあるのに周囲をうろついて探し回って、疲れて駅に戻ってきた時に大黒屋さんを発見し、有名なかつ丼を注文したのです。

このあとに地元の書店が潰れる少し前に岩波の「荷風全集が売れ残ってるけど半値で買ってくれ」と言われたので「ふらんす物語」と「あめりか物語」を買っちまったのですが、それに続いて自分史研究のために「断腸亭日乗」を買って読んだら、そのひねくれぶりに惚れてしまったのです。といっても読んだのはこの3作品のみですから本物の愛読者ではありません。

さて、かつ丼ですが、赤瀬川原平さんなどは「平凡な味」と評していますが、なんのなんの、本来、かつ丼とはこのように平凡な味こそが本物のかつ丼なのですよ。見た目が豪華で、素材の肉、カラッとしたかつの揚げ方にトロトロとした半熟状の溶き卵つゆの甘じょっぱさが命のかつ丼なんてこの世には沢山ありますから、それならばかえって個々の店の個性的な平凡な味こそが、かつ丼なのだと僕など思いますけれどね。

大黒屋さんのかつ丼やカツ重やその他の料理は、一流割烹とか洒落た料理屋の味とは違うんですよ。実は市川八幡というのは多くの割烹料理屋さんがあちこちにある、東京で言えば神田みたいな粋なところで、大黒屋さんもその中の一つであったはずなのです。ところが駅前の立地条件の良さから次第に大衆料理屋さん化していったに違いないのです。それでも店構えなどは江戸時代の風情があって(もちろん江戸時代創業ではないと思いますがね)…そこが好きなのです。そこがいいのです。

僕は、これからもたまにですけれど大黒屋さんでかつ丼を食べますよ。うふふ、でも、かつ丼があれば、大黒屋さん以外、どこにでも出没してかつ丼を食べに行きますよw

2013年12月18日公開

作品集『B級探偵』第2話 (全3話)

© 2013 消雲堂

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