ビルが整列する灰色の青山を二人は歩く。
「私がマシュマロ嫌いって話ししたっけ?」
「いや、聞いてないね」
彼女は少し後ろめたそうに言う。嫌いなものを嫌いと言わせない時代の仕業か。
「なんでマシュマロが嫌いなの? 甘いのは好きだったよねチョコとか」
「んーなんだろ、食感というか口の中が気持ち悪いの」
うつむきながらはにかむ。
「あのふわふわしているけど溶けてなくなっていく感じ? でもそれだとわたあめも嫌いになっちゃうか」
「わたあめは好きだよ。 ふわふわしてておいしい」
「となると弾力か。 やわらかいんだけど初めだけ噛み切れない感じ」
「あーそうかもね。 タピオカとは違った感じ」
ずっと判然としない顔だ。
彼女は味とか食感だけが嫌いなのではないのではないか。マシュマロから連想されるイメージ、それが嫌いなように思える。子供のおやつ、白くて潔白、丸みを帯びたかわいいフォルム、バーベキューの終わりにみんなで焼く。そんな明るさや、温かさの象徴たるマシュマロが嫌なのではないか。しかも、わたあめのように刹那的でない。
アスファルトを踏み鳴らす鉄の塊と、せわしない足音のサラリーマンが交錯する青山で僕ら二人だけが有機的だ。
「あ、いちょう! 初めて来た」
「秋には色づくだろうね」
青々としたいちょう並木の隣に伊藤忠商事のビルは似つかわしくない。
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