まやかしの世界と祝祭

破滅派第16号原稿募集「失われたアレを求めて」応募作品

松尾模糊

小説

7,446文字

音楽や映画やアニメ、この世界に存在する娯楽や快楽を悪魔が造り出した“まやかしの世界”のものだとして破壊する活動を推奨する新興宗教団体「真世界を創造する会」。アメリカで社会問題となったカルト教団は、やがて日本でもある事件の引き金となる。カルト教団に関わり人生を狂わせた人々の群像劇。※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

心の臓を脈打つような打音が規則的に反復され、腹の奥底に響く重低音が覆いかぶさるように続いた。一見、安寧したように見えた世界感を切り裂くような鋭い金属音が鳴り響き、眠りから覚醒したかのように野太い男性の咆哮が重なった。
「これは何?」少年の疑問に、父親は回転する黒いビニール盤の上に落とされた針を指で持ち上げて「ロックだよ」と答えた。

 

 

人類は長い間、堕落し続けてきました。特に産業革命以降、一部の人間の都合で作り上げられた理屈とそれに伴うシステムの下で人々は搾取され虐げられ、争い快楽をむさぼってきた。相次ぐ天災に流行り病、皆さんももう内心気づいているはずです。終末のときは近い。表象的な事柄に振り回されている場合ではない。内なる宇宙に目を向け、そこから聞こえる声に耳を傾けるべきです。今からでも遅くはない、神はあなたと共におられます。悪魔はそこから目を逸らせるために、まやかしの世界を創り上げたのです。まずは、そのまやかしの世界を皆で打ち壊しましょう。さあ、手元のナイフを手に取って。

 

 

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2020年10月18日公開

© 2020 松尾模糊

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