陰謀論

小林TKG

小説

1,107文字

久しぶりすぎて緊張します。ドキドキしてます。あと純文学にしてごめんなさい。

妻が首を吊った。彼女はバスルームで首を吊っていた。
「ごめんなさい」
一言、そう書かれた遺書が脱衣所に残されていた。仕事から帰ってきて最初意味が分からなかった。え、何だどうなってるんだ?しかし赤黒いザクロのようになった彼女の顔と、飛び出した目と舌を見ているうちに、警察とか救急車とかそういうのがどんどんと頭の中に湧いてきた。

大至急それら電話しつつ、ぶら下がっていたままの彼女を下した。

「どうしてこんな、どうしてなんだよ。子供だって」
こないだ言ってくれただろ。妊娠したんだって。それなのにどうしてこんな事。彼女の体は驚くほど軽く、栄養失調を感じさせた。

風呂場では狭すぎたので、脱衣所に横たえた。
「頼む。お願いだから。頼むよ」
人工呼吸、心臓マッサージ。もう無駄だと思えたが救急車が来るまでとにかくそれを繰り返した。

捜査した警察はろくに相手をしてくれなかった。僕はさんざん警察に言った。
「彼女が自殺するなんてありえない。妻は殺されたんです。生活に問題はなかったし、彼女は子供だって、妊娠していたんです。だからこれは何かの陰謀です。何か僕が知らないことがあったに違いないんです」
しかしいくら訴えても警察はろくに取り合わず、何一つ捜査もしないで帰って行ってしまった。

「くそ、どうなってんだ」
彼女が自殺するなんてありえない。あり得ないんだよそんなの。子供が欲しいって言ってた彼女がそんなの。

救急隊員も担架を持ってきたが、心肺蘇生の事など何一つしないで帰ってしまった。

「ふざけるな、陰謀だ。お前たちもそっち側の人間なんだな」
ふざけやがって。くそ。くそくそくそ!こんな国くそだ。今までずっとこんな国に暮らしていたのか。なんてことだ。ひどすぎる。陰謀に加担しているからなのか、あるいは関わり合いになって危ない目に合うのが嫌なのか、何もしないなんて。何もせず帰って行くなんて。僕はどうしたらいいんだ。

妻の遺体もそのまま置き去りにして帰ってしまうなんて。

ひどい。ひどすぎる。こんなんだったら死んだほうがましだ。もう生きていられない。妻も死んだ。その捜査もろくにしてくれない。こんなんだったらもう生きていてもしょうがない。

でも、ただでは死なないぞ。僕は。これは陰謀だ。絶対に復讐してやる。

それから少しして、通り魔が七人を殺傷し四人を死亡させる事件が起きた。

犯人はその後すぐに自分の首をきって自殺した。尚、男の家にはダッチワイフが転がっており、腹の中に子供の人形が詰め込まれていた。

そのニュースは一週間ばかりヤフーニュース等で記事になって話題を集めた。しかしその後コロナの第二波が旺盛さを増したため、男の記事はすぐに消えて忘れ去られてしまった。

2020年7月5日公開

© 2020 小林TKG

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