ペットのアナコンダに絞められた祖母が語る、一族の重大な秘密

島田梟

小説

14,283文字

内容=タイトル。

アナコンダのジョセフとマーガレットおばあちゃんの仲の良さに注目してください。

   ●

 

身の毛もよだつ惨劇から十年後、二十一歳の誕生日を迎えたマイケルは、自身のフェイスフルブックアカウントに亡き祖母マーガレット・スタインが、アナコンダのジョセフ・P・スタインに頭を呑みこまれる動画を上げた。そこにはマイケルのコメントも添えられていた。

 

まずみんなに一言。心臓の弱い人は視聴を控えて欲しい。かなりショッキングだから、腰抜かすくらいじゃすまないよ。こんな煽り方したら見て下さいって言ってるようなもんだけど、この動画、公表しようと思ったのは、物好きな人に楽しんでもらいたいからじゃない。僕なりにケジメをつけるためだ。強烈すぎるトラウマ…もっと見る…でおばあちゃんがどこにもいってくれないんだ。僕はおばあちゃん大好きっ子だったから余計そうなんだと思う。動画見たって前提で話すけど、あの後父さんと母さんとエリック叔父さんが帰って来て大騒ぎになったんだ。すぐに家野中がレスキュー隊員と警察官でいっぱいになってね、しっちゃかめっちゃか。かわいそうなジョセフはあれこれ手を尽くしても離そうとしなかったから結局殺された。おばあちゃんの言うことは辛うじて聞いてたけど、他の人間だと全然。どっちが先に死んだかわからない。おばあちゃんは ショック死だったって母さんは言ってた。叔父さんは「ママ、すごいポニーテールだったな」とか冗談言ってめちゃくちゃ怒られてた。ジョセフの死体は叔父さんが警察から引き取って「後学のために」あちこちいじくったらしいんだけど、そこから指輪が出 てきたって。『J・SとM・Sの思い出に』とか何とか刻んでて 、おじいちゃんのをジョセフが呑みこんだんだろうって言ってた。母さんはすぐゴミの日に捨ててたけど。
学校は三か月くらい休んだかな。家も引っ越して、父さんと母さんの仲もよくなって、まともな家庭に戻ったような気がする。でもどうだろ、自分でもよくわかんないけど。マギーおばあちゃんはもっと言いたいこと たくさんあったんじゃな いかって今でも思ってる。これもわかんないけど、いろんな人に文句言ってた。でも逆にみんなおばあちゃんの話になると黙っちゃう。僕が写真を見せるとすごい嫌そうな顔で「優しかったね」って、それだけ。これがジョセフになると「だから犬にしとけば……」って言うんだ。今でもおばあちゃんの言葉は再現できる。スマホで音を拾ってたからね。スマホからUSB、USBからクラウドへ保存したんだけど、いつでもあの声。でもなぜか消したくても消せないんだよね。それで消えたかなと思ったら降ってくる。いや、湧いてくるかな? 前は飛んできた。マイケルって。全然抑揚なしでマイケルって。どっちなんだってなる。彼女とデートしてても聞こえるから、結構うんざりしてる。正直おばちゃんのお墓を何度か蹴飛ばしたくなった。もちろんハイスクールまでだけどね、実際にはやってない。どれだけ嫌がらせを受けても、僕のファミリーの中じゃずっとまともだったし、死にざまもロックだった。自殺以上安楽死未満みたいな。小さい頃は僕だけは好きでいなきゃと思ってた。自分に課せられた義務なんだって。ある意味納税と一緒。せめて気持ちは前向きじゃないとね。

ずっとおばあちゃんが好きなのは地上で僕だけ。でも最近、愛情にちょっと変化が出てきた。街ですれ違うおばあちゃんくらいの年齢の人を見てると、助けてあげたくなるんだ。フォロワーのみんなだったら、これでわかってくれると思う。念のため。実際にやったわけじゃない。やるわけがない。そこは信じてくれ。念のため。

かわいそうなマギーおばあちゃん。好き嫌いはどうでもいいからこんな人がいたってこと、覚えてて欲しい。

長文すまない。

 

この投稿から五日後、動画とコメントはマークの忠実なる下僕の手によって闇へと葬られた。

 

〈了〉

2020年3月7日公開

© 2020 島田梟

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