初めての味

応募作品

一希 零

小説

4,959文字

「あらゆる可能性を考えよ。AがBとなりBがCとなってCがDとなるとき、A=B=C=Dであり、しかし他方では、A≠B≠C≠Dでもある。―このように何か深そうなことを言うとき、大概は深いものなど存在しない。単にふざけているだけだ。Aと言えば、それはAなのだ。儂が「うんち」と言うとき、それは単に「うんち」であるのと同様に。」玉名伸介『皇帝、関白、ロリータ』より。100パーセント思春期恋愛小説です。

更科千秋はサラダチキンを出すことができた。一日一回、頑張れば三回くらい、手からサラダチキンを出せる。アンパンマンが自らの顔面を毟り取り、困った人々にアンパンのカケラを分け与えたように、更科千秋はシュッシュとスクワットを行い汗水垂らしてサラダチキンを生み出し、腹を空かせた育ち盛りの男女に配っていた。

そんな「千秋くん」とおつきあいを始めて一か月が経った「わたし」によって、この文章は書かれている。今日の出来事を思い出しながら。

 

高校に入学して六月を迎えた頃になっても、わたしは教室の自席で読書をして休み時間を過ごしていた。クラス内で浮いている、とまではいかないけれど、大人しい生徒の一人として認知が行き渡った感じは、誰よりわたし自身がよく理解していた。小枝のように細い手足に青白い皮膚を貼り付けた、表情の変化に乏しいわたしは、そんな見た目もあって、いとも簡単に現状のポジションを確立してしまった。「絶対に似合うから」と言うお母さんを信じて長く重たい黒髪をばっさりと切り、ショートボブにして高校生を開始したものの、わたし自身は特に何も変化していなかった。変化を望んでいたのかどうかも、自分ではよくわからなかった。

わたしは学校で読書をする時間が他の人より多かった。元々本が好きなわけではなかった。適当な本を図書館で借りてきて、読み終われば次の本を借りて読む。小学生の頃からずっとそのような生活をしてきたため、本には少し詳しくなってしまった。だから、クラスメイトの更科千秋が、玉名伸介の新刊『皇帝、関白、ロリータ』を読んでいることにも、すぐに気がついたのだ。

わたしにとって更科千秋とは、多くの生徒と同様に「サラダチキンの人」としてその存在を認識していた。彼はクラスで人気があったし、何よりその特技によって目立つ人物だった。弁当を忘れた女子生徒のために一生懸命スクワットをしてサラダチキンを出してあげ、早弁をした結果お昼に食べるものがなくなった男子生徒のためにスクワットをしてサラダチキンを出してあげた。男子のグループといると思ったら、女子とも普通に仲良くして、わたしみたいなポジションの人間からすると、そういうタイプの人間は好ましい印象を抱かないことが多いのだけれど、彼には不思議と嫌な感じがしなかった。子犬みたいな容貌のせいかと思ったが、どうやら違う。彼は人と接するのが上手だった。その上手さは、けれど、極めて人工的な技術に思えた。そしてその精巧な技術は、他者を騙すために用いられるのではなく、自らを安易に晒さないようにする透明のバリアみたいなものだった。彼はきっと臆病な人間なのだと、わたしは思った。

玉名伸介の『皇帝、関白、ロリータ』を彼が読んでいるのを見て、わたしは彼に話しかけようか悩んだ。まったく無名の作家の、小説とも思想書とも詩ともいえないその奇書を、平凡な我が高校の教室で読んでいる人間は、きっと更科千秋とわたし以外に存在しないだろう。結局、わたしは話しかけなかった。どう声をかければいいのかわからず諦めた。かわりに、次の日からわたしも『皇帝、関白、ロリータ』を教室で読むことにした。

わたしが『皇帝、関白、ロリータ』を教室で読み始めてから五日後、更科千秋はわたしに声をかけた。思ったよりも時間がかかった。彼はとても驚いたような表情をして、「その本、ぼくも読んでいるんだ。面白いよね」と言ってきたが、わたしは、彼が四日前の時点でわたしがこの本を読んでいることに気がついたことを知っていた。もちろん、更科千秋が『皇帝、関白、ロリータ』を読んでいることにわたしが先に気づいたことは言わず、「この本を読んでいる人に初めて会ったわ」と言った。

更科千秋と話すようになって、わたしは彼という人間に興味を持つようになった。彼はとても優しい人間だった。彼は無限にサラダチキンを出せるわけではない。彼のサラダチキンにリスクがないわけでもない。おそらく彼はいろいろなことを考えて、人のためにサラダチキンを出してあげていた。見せびらかすことも、その特技を利用し人を騙すこともしなかった。
「好きです。つきあってください」

気づいた頃には告白していた。わたしからだ。自分の行動にいささか驚いたが、その行動を好ましいとわたしの心は判断した。頭の奥の方がひりひりする感覚が強まってゆき、きっと珍しくわかりやすいくらいに緊張した表情をしている自分を想像し、頬の皮膚に熱を感じ始めたとき、「ありがとう。こちらこそ」と、落ち着いた声で返事が来た。

それから一ヶ月が経った。気温は上昇し、日照時間が長くなり、『皇帝、関白、ロリータ』を二人は読み終えた。その間、わたしは彼のサラダチキンを食べたことはなかった。何度か「欲しい」と言ってみた。そのたびに彼はコンビニでお菓子や肉まんを奢ってくれた。千秋くんはわたしに自分の出したサラダチキンを食べさせたくないみたいだった。彼が誰かのために捻り出すサラダチキンを、わたしは教室の片隅から指を咥えて眺めていた。

 

千秋くんは陸上部だった。わたしは彼の部活が終わるまで、図書館で宿題を終わらせ、適当な本を取って読んでいた。五時半に下校を促すチャイムが校内に響き渡ると、わたしは図書館を出て、校門の脇の駐輪場へ向かった。千秋くんは既に待っていた。わたしに気がつくと、良く言えば人当たりのいい、悪く言えば弱気な印象を与えるような、何かを隠そうとする人間の自己防衛的な微笑をぶら下げて、彼はわたしに手を振った。わたしは彼に、小さく頷いてみせた。

校門を出て、わたしは千秋くんと駅までの帰り道を歩く。千秋くんの押す自転車の車輪が回転する音を聴きながら、わたしは横目で彼の顔を見ていた。染めているわけではない、自然に色素の抜けた茶色のサラサラした髪の毛が目尻の線に沿うように流れて、瞬きをすれば睫毛に跳ね返され髪が揺れ、それがどうしようもなく愛おしく感じられた。半袖のワイシャツは更に袖を二度折り返され、すらりと長い、骨張った腕が無防備なくらいに平然と露出されていた。その腕の、肩に近い部分の白い肌を見て、彼が日々の部活動によっていかに日に焼けた健康的な身体を作り上げたのかがわかった。わたしは、胸の奥でつむじ風が吹いたみたいにくすぐったい気持ちがした。
「なんか喋ってよ」わたしは言った。
「なんかって、なにさ」彼は言う。
「ねえ、走っているときって、なに考えてるの?」
「今日は、アンパンマンについて考えてた」
「どうして?」
「お昼、購買で買い損ねたあんぱんを想像して、あんぱんを差し伸べるアンパンマンにたどり着いた」
「いつもそんなこと考えながら走るの?」
「長距離走ってると、なんか暇なんだよね」

前髪の生え際のあたりに微小の汗の粒が浮かび上がるのを感じた。夕日の光は鬱陶しいほど強く、時々弱く吹く風は、まるで久しぶりに電源を入れたばかりの古いエアコンのようだった。千秋くんを見ると、喉仏の下の窪みに汗が溜まっているのが目に入った。
「いいじゃん。アンパンマン。昔好きだった気がする」と、わたしは言う。わたしの脳内アンパンマンが「アンパンマンは君さ」とキメ顔で囁いていた。
「ねえ、アンパンマンって、本当に幸せなのかな」
「どうだろうね。正義の味方だし、幸せなんじゃない?」
「最近さ、考えるんだ。僕はサラダチキンなんじゃないかって」
「え、人間だと思うよ?」わたしは真顔で言う。
「じゃあ、アンパンマンは? あれ、あんぱんだって思わない?」
「ええ、アンパンマンはアンパンマンだよ」
「そう、か」
「ちゃんと話、聞かせてよ」
「こういうことなんだ。まず、サラダチキンを出せる僕がいる。つまりこの僕だ。他方で、もうひとつの世界には、サラダチキンが出せない僕がいる。想像上の僕だ。僕は、そのもう一人の僕をいつも想像し、この僕と比べてしまう。もう一人の僕とこの僕との違いは、サラダチキンが出せるか出せないかでしかない」
「うん」
「もし、サラダチキンの出せない僕がいたとして、それは本当に僕なのか。もちろん僕ではない。この僕が僕だから。けれど、だとしたら、僕はサラダチキンが出せることによって僕だということになる。つまり僕は、僕たるゆえんは、サラダチキンだということになってしまわないだろうか?」
「何を言っているか、まったくわからないの」わたしは正直に言った。
「利用されているんじゃないかって思うと怖いんだ。ちょうどいい食料製造機か何かだと思われているんじゃないかって。僕にとってもどうでもいい人間ならまだいいんだ。僕が信じたい人が、僕を利用していたら、と思うと」

彼は一度言葉を区切る。普段は爽やかな彼の取り乱した姿を見て、わたしもまた動揺していた。
「僕は人の言葉が信じられないんだ」

わたしはすぐに言う。
「わたしが一カ月前に言ったことも?」
「それは」

千秋くんは黙り込んだ。小さなビルとビルの隙間から沈みかけた夕日の光が差し込んでいた。光が千秋くんの背に突き刺さり、彼の表情は逆光でよく見えなかった。

わたしは怒っていた。けれど、怒りを彼にぶつけても何も変わらないことは理解できた。わたしは、自分の感情の吐露よりも、彼の変革を望んでいた。
「信じられなくてもいいから。千秋くんがわたしをどう思っているか教えて」
「好き、だよ。君のことを信じたいんだ」
「ねえ、あの日、千秋くんからわたしに話しかけてきたんだよ? わたしは玉名伸介の本に気づいても、君のことをスルーした。でも千秋くんはわたしに近づいた。人を信じられない臆病者かもしれないけれど、君はきっと、人が嫌いなわけではない」

声をかけなかったわたしは根本的に人間に興味がないのかもしれない。けれど、彼は違った。わたしはそれを知っている。
「だって、君は優しいから。サラダチキンが出せようが、出せまいが、千秋くんのその優しさは変わらない」

そう言って、わたしは彼を抱きしめた。やれやれ、世話の焼ける男子を好きになってしまったと内心思い、ため息をついた。一体どうして彼のことを好きになったのだろう。改めて考えてみると謎だった。千秋くんの言うように、例えばサラダチキン目当てだった、といった理由なら、ある意味わかりやすいのに。あるいは、「声をかけられたから」が理由だとしたら、わたしはなんて単純なのだろう、とも思った。そんなことを考えながら、わたしはしばらくの間千秋くんに抱きついたまま離れなかった。千秋くんの心臓の鼓動が、密着するわたしの身体を僅かに弾ませていた。

ボト、という音がした。千秋くんの右手を見ると、とても大きなサラダキチンが握られていた。彼も驚いたような、恥ずかしそうな表情を浮かべ、サラダチキンを眺めていた。
「それ、ちょうだい」わたしは言った。わたしの胸もまた、強い鼓動を打っていた。
「えっと、どうぞ」
「ありがとう。いただきます」
わたしは口をつけた。
「どうかな?」
「めっちゃ美味しい!」

これが、今日の出来事だ。

 

追伸。以下の文章は、これまでに書かれた文章から一週間が経過した後に書かれた文章である。これは蛇足だ。けれど、あらゆる文章には蛇足があり、そして、そもそも文章自体が現実に対する蛇足みたいなものなのだから、どうか許してほしい。

その日から、彼はサラダチキンを出せなくなった。あるいは、出さなくなった。少なくとも教室でスクワットをシュッシュとやり始め、出来立てほやほやのサラダチキンを悩めるクラスメイトに配るようなことはしなくなった。クラスメイトはとても残念がったが、千秋くんを責めるようなことはせず、これまでサラダチキンを貰ったことに対するお礼を述べた。千秋くんは嬉しそうに、きっと本心から笑っていた。わたしはそう感じた。

わたしと千秋くんの関係は、あの日を境に何かが変わったような、そうでもないような、いずれにせよ一週間しか経ってないのだから今はよくわからない。これから少しずつ、きっと何かが変化するのだろう。一切の事象と同様に。

ひとつ。わたしの感情においては、既に変化があった。

君のサラダチキンをたべたい。

あの日初めて千秋くんのを口にした瞬間の身体の高ぶりを、わたしは忘れられずにいる。

2019年3月16日公開

© 2019 一希 零

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"初めての味"へのコメント 15

  • 投稿者 | 2019-03-20 11:21

    恋愛小説の形をとりながら、自己の存在について形而上学的な問いに苦悩するひとりの人間を描いた哲学的作品ともとらえられそうです。思春期の恋愛を経ることで、自分の存在形態や意味が揺すぶられ、変化していく過程の、その危うさとはかなさが表現されている。サラダチキンを出さなくなるのは、大人への途上で飛べなくなってしまう苦悩を味わう「魔女の宅急便」などの思春期ものの系譜に連なるような、二度と戻らない今という瞬間が放つ痛みと、変化していくことの切なさとして読みとれる。サラダチキンを安直なメタファーとして回収されることを拒んだ完成度の高い作品。チキン男のある意味汗臭い青春を、同盟者としての「わたし」の視点で描いたその筆致は豊かで鮮烈だ。

  • 編集者 | 2019-03-22 15:08

    更田くんは、言わば魚とパンを五千人に振る舞ったナザレ人イエスである。だが、ナザレ人イエスが、メシアとしてのイエス・キリストとして知られる為には、死(磔刑)が必要であった。更田くんは、死ななかった、市井のイエスである。良く、「イエスにも生活への誘惑があった」と言われる。だが、「死」の側にも誘惑があるのではないか?でも、俺はサラダチキンより腿肉にかぶり付きたい。あと、サラダ記念日とか洒落た事を言い出したらモニターに頭突っ込もうかと思ったが、流石にそこには踏み込まなかったのがエライ。良い作品だった。

  • 投稿者 | 2019-03-23 00:16

    Juanさんが勝手に「サラダ」君にしたのを見て、そうか、更科千秋君はサラダチキンの変名だったのか、と気が付き、なるほど『皇帝、関白、ロリータ』は「高タンパク低カロリー」のことか! すると玉名伸介はなんだろう?「玉なし?」などと、一時間くらい悩みました。このあたりのネーミングはさすがは一希さん。こういうの好きです。

    それはともかく、千秋君がクラスメートに好かれたのはサラダチキンをひねり出す特技のゆえではなく彼の人柄であること、少々頭でっかちの「私」が千秋君を好ましく思ったのは同じ本を読んでいたことから同志的な匂いを嗅ぎつけたこと。にもかかわらず千秋君は悩みます。「人の言葉が信じられない」こちらも少年らしく頭でっかちです。
    言葉ではなくて寄り添い合う心臓の鼓動で何かが変わったこと、生涯最大のサラダチキンを出してそれきりになったことで、自分で張り巡らせていたバリアが解けて、友達や彼女に素顔をさらけ出すことができるようになったのかな、と思いました。
    好きな作品です。

    • 投稿者 | 2019-03-26 02:53

      玉名伸介=「玉なし」です。玉名伸介の本によって(=「わたし」との出会いによって)、更科千秋は玉なしになる(=サラダチキンを出せなくなる、あるいは、出さなくなる)みたいなことを考えて命名しました。ただまあ、「去勢」がどうとか哲学的に言いたかったわけではないですし、深い意味は考えていません。

      著者
  • 投稿者 | 2019-03-23 03:33

    作品の意図とはまったく異なるとは思いますが、千秋くんの悲哀、その切なさに泣けてきます。

    • 投稿者 | 2019-03-26 03:03

      今作では千秋くんの悲哀や葛藤もひとつのテーマとして書いているので、桃春さんがそこに何かを感じてくださったなら、意図と全く異なるわけではないかな、と思います。

      著者
  • 投稿者 | 2019-03-23 12:33

    これを読んでいて、「一希さんって頭いいよなあ」と思いました。会話劇の臨場感が羨ましいくらいにリアルかつファンタジックでした。

  • 投稿者 | 2019-03-24 14:24

    そうか『皇帝、関白、ロリータ』は「高タンパク低カロリー」のことでしたか。頭の回転が悪い私が作品を読んで気付けるはずもなく、大猫さんのコメントを読んで気が付きました。作品の中に幾つかのメタファが潜んでいるなと感じましたが、私には半分もくみ取る事が出来ませんでした。しかし、最後の一文には心をえぐる何かを感じました。鳥のささ身みたいなもんですものね。

  • 投稿者 | 2019-03-24 17:46

    手からサラダチキンを出す男…とても面白いと思いました。その世界観や、更科くんが自身とアンパンマンを重ね合わせる思考などはとても読み応えのあるものでした。ただ、それだけ想像力の豊かさを感じただけに、彼女との付き合いの始まり方やそれに対する更科くんの反応がとても淡泊に思えました。

    • 投稿者 | 2019-03-26 03:11

      告白時などの更科くんの「わたし」への対応が妙にタンパクなのは意図してそう書きました。彼がほんとうの意味で「わたし」と向き合うまでは、優しいけれど距離がある、タンパクな感じを出したかったのです。もちろん「わたし」に対する熱量(カロリー)も高くは見えない(実際に熱量があるかないかは別にして)描写を意識しました。

      著者
  • 投稿者 | 2019-03-24 19:26

    なんだか一希さんこの作品をツイッターで自虐的に紹介していましたけども、ひとつの青春恋愛小説としてたのしく読みました。
    女の子の千秋くんに対する目線、気持ち、その表現のひとつひとつが冴えていて、共感できます。
    女の子の目線から描かれる千秋くんは人気者でありながらとてもナイーブで、そのへんの誠実さゆえの彼の苦悩といいますか、そういったものもきちんと描かれていて、なんというかカルピスを飲んだ時のなつかしさというか、そんなことを思い出すような爽やかさです。
    なんとなく一希さんの作品て、登場人物同士の安易な対話を避けるような傾向があると思っていて(私もまさにそうなんですが)、でもこの作品では真摯に「他者と向き合うこと」に一希さんご自身が向き合っているような気がして、見習わなきゃな、と思った次第です。
    ボト、てでかいサラダチキンが現れたとこは笑いました、私もできたてのサラダチキン食べてみたい。

  • 投稿者 | 2019-03-25 00:51

    冒頭一行目からウケてしまって3回くらいその21文字を読み直しました。(3回笑いました)
    かと思いきや内容は青春甘酸っぱ恋愛モノでそのギャップがとても良いですね。久しぶりに甘酸っぱいものを読んでなんだか心が浄化されました。そしてそれがサラダチキンの小説っていうのがまた笑えて二度美味しかったです。更科千秋くんのあだ名はやっぱり「サラチキ」なのかな…。

  • 投稿者 | 2019-03-25 16:06

    サラダチキンかぶった!!笑
    私もサラダチキン出してほしい!!笑
    一番うまくお題を調理したのではないだろうか。
    しかし、千秋くんはなんでサラダチキンを困った人にあげつづけるのか?
    「(千秋の)臆病を隠す透明なバリア」のような特殊能力がなぜうまれたのか、
    彼が人にあげる必然性、
    など物語的にこだわれる点はもっとあるのかなと思った。

    「私」にはサラダチキンをあげない、
    というのが純愛で、とてもいいですね。
    と思ったら、ラストで主人公にあげるんですね。
    でも他の人にあげてきたものとはきっと違うんでしょうね。

    ただ後半の「想像上の僕…」のところのやりとりが微妙にわからなかった…。

  • 投稿者 | 2019-03-26 02:07

    いちいちさわやかで読後感もいい。登場人物に対しても、作品全体に対してもものすごく好感が持てる。ヒロインの「前髪の生え際のあたりに微小の汗の粒が浮かび上がる」様子や千秋の「喉仏の下の窪みに汗が溜まっている」様子についても細かく描写されているが、(少なくとも私には)汗臭さは一切感じられなかった。千秋の実存的な悩みも知的でおしゃれでカッコいい。春風亭どれみの千奈美ちゃんと被っている「わたし」のショートボブも、検索してみたら今どきの清楚なオシャレだ。スタバやPAULの店内でデートの相手を待ちながら軽く読み流したい小説だ。

    コンビニを利用する機会が少ないため、実は「サラダチキン」がどんなものか今ググってようやく分かった。脆皮鶏並みに未知の食材? 料理? だった。牧野さんの話にも出てきたし、今の都会の流行フードなのか? サラダチキンの生白さと、千秋の「無防備なくらいに平然と露出されていた[…]腕の、肩に近い部分の白い肌」が重ねられているのか? ガブリとそこに噛みつけばサラダチキンの味がするかもしれない。中盤、サラダチキンをねだる「わたし」にコンビニであえてサラダチキンを買い与えないのは意地悪だと思った。

  • 投稿者 | 2019-03-26 06:55

    ほぼ男子校のような高校で彼女などいようもなくましてやサラダチキンという概念すら存在しない昭和を通過したぼくらにとってまったくの異次元の出来事なわけですが、巧みな物語進行で気持ちよく酔わされました。じわじわと深まる恋心の低音熟成調理的な、最新型恋愛小説みたいな読み方をしましたが、単に俺が他を知らないだけかもしれない。今回ハッピーエンドが多いのは春だからですかね。

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