遼平が夕樹と仲よくなったのは転校してきた初日から隣の席になったのがきっかけだった。夕樹は無口だったが、何も揃えていない遼平に新しい高校の教科書を見せてくれた。授業中の夕樹は頬杖をついて入道雲を眺めてばかりいたので、教科書を使うのはもっぱら遼平だけである。窓の外を見つめる夕樹の横顔は彫りが深く、前髪がわずかにかかる二重まぶたの目は澄み透っていて覗き込むと吸い込まれそうなほどだ。日に焼けた肌はワイシャツの白さを際立たせていた。女子にモテそうなタイプだと遼平は感じた。
遼平は夕樹のことを島に引っ越してきて最初の男友だちだと思っていたので、他のクラスメイトから夕樹が女だと聞かされたときには面食らった。夕樹が男子の制服を着ることを高校側は当初快く思わなかったようであるが、親が来て校長と話をつけてからは誰も何も言わなくなったという。それでも体育の授業では女子の班に加わり、女子トイレを使う。トイレについて遼平が話を聞いてみると、
「別に、こっちに入るのが自然かなって。それに男子便所って汚いだろ?」という、あっさりした答えが返ってきた。
七月のある日、遼平は高校からの帰りにある少女の姿を見た。ふだんは毎日夕樹と下校するのだが、この日は夕樹が早退したので一人だった。夕樹の自宅近くのバス停で、ショートカットの少女が着いたばかりのバスに乗ろうとしていた。遼平は自分でもなぜか分からないままに足を止め、少女の姿を見つめた。
健康そうな、美しい少女である。涼しげな若草色と白のワンピースを着て、ピンクのポーチを手にしている。新品の白いパンプスが背の高い少女をさらに長身に見せていたが、それを履いて立つ姿はどこかぎこちなく見えた。いよいよバスに乗り込もうとする瞬間、少女は視線に気づいたかのように遼平のほうに顔を向けた。
それは夕樹だった。
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