マナブくんは先週から学校に来ていない。一応病欠届が出されていたが、噂によれば彼はマブイを失くしたらしかった。「マブイ」とはこの地方で「たましい」を意味する言葉である。しかし、不注意な人がときどきやってしまうように何かの拍子にうっかりマブイを落としたわけではないようだった。悪魔に売り渡したらしいというのが私たちのあいだではもっとも有力な説である。マナブくんが悪魔と一緒にスターバックスにいるところを何人かが目撃している。マナブくんのくせにスカしてスターバックスなんかにいたから人目を引いたのだ。
ようやく登校してきたとき、私たちは彼がマブイを失っていることをすぐに理解した。一見すると今までどおりのマナブくんだったが、同時に彼はもはや私たちの一人ではなくなっていた。いつものおびえた表情が消え、背筋が伸び、近寄りがたい孤高の雰囲気を漂わせている。目立たなかった彼が突如として煌々と光を放ちはじめたかのようだった。その変化は私たちを戸惑わせた。
マナブくんは始業のベルが鳴ったあとに悠々と教室に入ってきた。彼は私たちと同様にこれまで一度も遅刻をしたことがなかった。私たちの担任の先生は戸を荒々しく開ける音に出席の点呼をさえぎられ、一瞬何が起こったのか理解できていないようだった。
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