その小説家は完璧な夢から目覚めてしまった。しばらく何が起こったのか分からないまま暗い天井に視線を漂わせていたが、彼ははっとしてベッド脇のテーブルの上に置いてあったノートとペンに手を伸ばした。いつアイデアが湧いてきてもいいように常に手の届くところに筆記用具を用意してあるのだ。
その夢は小説にするにはあまりにも完璧な夢であった。奇想天外な着想、斬新で誰にも予想がつかない展開、そしてため息が出るほど均整のとれた構成――すべてをありのままに文章にとらえることができたなら、それはこれまで小説家が読んできたすべての小説を凌駕する最高傑作になり得るだろう。新作が途絶えて久しく、文壇からも忘れられかけていた彼にとっては真っ暗な洞窟を抜け出して再び脚光を浴びるチャンスであった。
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