山道がとつぜん幅の広い滑らかに舗装された《棕櫚街道》へ合流し、海と並走した。にぎやかな島々を見ながら西へ西へ進んだ。
点在する小島はまったくの手つかずなものから遊園地になっているもの、欧風な城をいただいたものから天に伸びる巨大な螺旋階段を建築しているもの等々、様々だった。
大きな公園や動物園や水族館が現れるたび立ち寄った。動物園と水族館は、それぞれの門衛が双子のおじさんで、水族館でそれとわかった時に動物園へ引き返し、あっちのおじさんはタダにしてくれたと言うと、順路の通りに歩き過ぎる約束で入園無料にしてくれた。水族館でも同様だった。
屋台で食べ物を買い――四人には目下オーガニックフードが流行だった――荒れ果てた海の家で冷たいシャワーを使った。コインランドリーで洗濯し――乾燥が終わるまでは素っ裸で座っていたが、そのあいだに他の客からずいぶん小銭をもらった――近くに神社仏閣や図書館がない時には軽トラの荷台で眠った。
軽トラを借りる際に一つだけ買った煉瓦は、夜の図書館に入る際などに役立っていたが、もはや一個の煉瓦として一生分のガラスを割り終えただろうと、ある時、軽トラを最高速度で走らせて、窓から道路へ叩きつけた。
バックミラーの中で煉瓦は粉々に砕けて赤い煙が立ったが、その煙の中になにかキラリと金色に光るものを知明は見た。戻って調べてみたけれど、なにも見つからなかった。
ある公衆便所の壁に大手売春会社の求人広告が貼られていたので、電話して穂野と八代井が登録した。賀谷と知明が公園で待っていると、目印として胸ポケットに赤いマーカーペンをさした男性客が現れたので、
「女の子たちはあとで来ますが、乗り逃げされては困るから先に代金を払ってください。何度かそういうケースがあったもので」
と賀谷が言い、支払ってもらうと、半分を返して、
「これは騙したお詫び」と言った。
この商売は一度でやめて、漫然と西へ向かった。
右のような商売をやったからに違いなく、ある一軒の娼館の前でガス欠になった。公衆電話でガソリン配達を頼み、待っているあいだに穂野と八代井が艶やかにほほ笑んで、
「君たちのためにテクニックを教わって来る」
と言って娼館に入って行った。けれども帰って来た女子たちは、それからしばらく女同士でなければ寝なかった。
眠れない夜、荷台の上で四人ジグソーパズルのように寝ころんで、幼少期のスキー旅行の話をしている。
小学校の体育教師だった賀谷の家長が、六年生の担任を受け持った時、修学旅行先の旅館やホテルを下見に行かなければならなかった事情から、ついでに家族とその友だちも連れて行ってくれたのだった。
「あれっておじさんの自費だったんでしょ?」と八代井が聞くと、賀谷は知らないと言った。
それからしばらく話題がなくて、ただぼんやり星を眺めていた。一筋の長命な流れ星がなにかにぶつかったかのように四方八方へ散ったが、なににぶつかったのかはわからずじまいだった。
近くに赤いポストが転がっていた。ある時賀谷が引っこ抜いて来たもので、荷台で夜を明かすたび、そこいらの町角に一晩中突き立てておいて、出発の際に回収していたものだった。うまくすれば手紙に現金を入れて誰かに送る人もあろうという期待なのだったけれど、どの町でも「その手は桑名の焼き蛤」と書かれた紙が入っているばかりだったので、このたびとうとう捨てられたのだった。
ふと賀谷が知明に
「なんか落とし噺をしてくれよ。最高に笑えるやつ」
それで知明は考えたけれど、思いつくのはもうこの顔ぶれに話したことがあるものばかりで、ウケたためしもなかったから、創作することにして少し時間をもらった。しばらくして知明はぴしりと指を鳴らした。賀谷は首を持ち上げて
「できたか」
「いいや」
「なんだよ」
「いや、つまり賀谷はなんか思いついたわけだ。でもちょっと自信がないから俺に前座をやらせて温めようとした――その可能性に気づいたのが指だったんだよ」と言って、もう一度ぴしりと鳴らした。
賀谷が見回すと、女子たちも期待して見つめている。
「じゃあしょうがないな。さっき思いついたやつがあるから、話してやろうか。――あるところに金持ちの爺さんが暮らしてた。爺さんはこのところ、泥棒が来るという恐怖にとりつかれていた。これではせっかく金持ちでも、夜もおちおち寝られないし、ちっとも幸福じゃない。そこで爺さんは、泥棒を撃退する画期的な方法はないかとアレコレ考えて、遂に解決策が見つかった」
「うん」
「泥棒の気持ちになればわかるこった。どこかの家へ盗みに入って、そこになにがあったらイヤだ?」
「さあ。獰猛な犬とか」
「違う。一番イヤなのは、首をくくった死体さ。どんなにベテランの泥棒だって、こればっかりは肝を潰して逃げるだろ。爺さんはそれに思い至って――」
「最低」と八代井が言った。
「じゃあ次、知明な」
"猿の天麩羅 4"へのコメント 0件