ぱらぱらと降り出した槍に濡れるのもかまわず話多志が四輪バギーを飛ばしてゆく。中学時代の友人の討狂武士が収監されている刑務所に向かって。
討狂武士は三十を過ぎて定職も持たずぶらぶらしていたが何やら鬼退治のようなアルバイトに行った際に張り切り過ぎて班長の雉から注意されたのだそうな。
班長とはいえ雉は年下で頭に来た討狂武士はアパートのお向かいに住んでいる猟師へ雉の住処を教えた。
それで雉は黙っていればよいものを私有地な茂みに入り込んで来る猟師へ道理を説きに出て撃たれたのであった。(やほ)
そのことを調べた刑事は、雉はどうでもかまわなかったけれども退治された鬼の中に知り合いがいたために討狂武士を恨み、埃が出るまで叩いて叩いて数々の冤罪が出て来たのである。(見れません。。。)それは例えば食事の罪であり過去世の業であり人類の原罪であった。
そのようなかたちで収監されている囚人ばかりいる刑務所なのだった。
討狂武士の母親が看守や他の囚人たちに卵焼きだの海苔だの付け届けを絶やさなかったので迫害されたりはしなかったけれども実際には討狂武士のほうが迫害している側だった。
討狂武士は自分がイジメている看守や囚人たちが母親の付け届けを受け取っていることを知らなかった。(excellent!)話多志は討狂武士から頼まれていた独房の壁の鍵を差し入れした。
先達の囚人たちが既に独房の壁へ精緻な鍵穴を掘り抜いていたのだったが肝心の鍵がなかったために誰も抜け出したことはなかったのである。看守は抜け出された前例がないために鍵の差し入れを許可した。
討狂武士は夜になると脱獄して来、向かいの茶屋で待っていた話多志のバギーの後部座席にまたがった。夜更け過ぎには刺股に変わるかと思われていた槍はやんでいた。
話多志の家で松茸のビールを飲んで祝杯を挙げていると一人の役人が訪ねて来、このたびの脱獄の事実を内緒にする約束で討狂武士は釈放となった。
酔いが回って赤い顔した討狂武士が話多志の家の中を見回して、
「ところでお前は今どのように暮らしてるんだ」
こちらも赤い顔した話多志が答えて、
「何をしてるでもない。為さるべきことからは一切手を引いている」
「そうか。相変わらずこんな時代でも神々の鑑だ。しかしえらく寂しいね。妻子はどうした」
「二人とももういない。娘は幼馴染の巨人の肩に乗ってどこかへ行っちまったし、妻は葛藤のあまり自動車になってしまったが、ある日盗まれた」
「盗まれた! 盗難届は出したのか」
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「いや調べてみたら盗んだのは妻の父親だった。ようやく私から取り返して今は愉快に乗り回しているからもういいよ」
真菰の葉巻の煙が充満しているので窓を開けた。夜風を浴びながら討狂武士は遠い目をして、
「娘魔夜香はどうしているだろう……」
娘魔夜香は少年時代のマドンナだった。あまりの美しさに年を取るのが周囲よりも早くて中学の頃には二十代の中頃になっていた。(見れました!)話多志たち数人の男子生徒の五塵六欲を優しくこそげ落としてくれたものだった。
その勢いで二人は娘魔夜香を訪ねた。相変わらず年を取るのが早くて髪は真っ白になっていたけれどもますます美しくなっていた。
懐かしそうに話すのにいわく数年前に大きな病気をしたのだがこの春新たな病気を患って、病気同士が喧嘩して治ったとのこと。奔放な生活がたたって少なからぬ借金もあったのだがこれも別の借金と喧嘩して帳消しになったところだそうな。
話多志と討狂武士は二人してひざまずき花束を差し出した。娘魔夜香は答えて、
「私を手に入れたければ地の果てにある宝玉を取って来てちょうだい」
それで二人は地の果てにある宝玉を取りに出かけた。娘魔夜香も退屈していたので一緒について来た。(投げ銭は出来ますか)
まず地の果てがどこにあるのか調べるために古本屋へ行き、現世と過去世と未来世との三種類の地図を買ってバーに入った。(参戦! これまでの経緯を教えてください)バーを経営しているのは話多志たちの中学時代の友人の列島患という男だった。
彼は長年ウイスキー工場で働いていたのだがウッカリ者で糸くずなどしょっちゅう混入させてしまい、大量の廃棄品が出た。それでとうとうバーを開店したのだった。
話多志たちのほかに客はいなかった。ウイスキーには時おり年代物の糸くずが浮いていた。(離脱。。。)ちびちび飲みながら四人で地図をのぞき込み、地の果てをどこにするか相談をぶっていると、ふいに窓が明るんだ。
見ると夜空にアルビノの円盤が浮いているのだったけれど、やがてどこかの夜更かしな子どもたちがそれを虫取り網で捕まえた。
それでアルビノの円盤は激しく発光したため一気に夜が明けた。(××さんが退会しました)子どもたちは獲物には逃げられたけれども夜を一つ飛ばせたので満足そうに駆け去って行った。
列島患は仕方なく店を閉めた。まあちょうどそろそろ品薄になって来ていたのでこの機にウイスキー工場へ再就職の面接を受けに行くと言う。
話多志たちは途中まで同行した。交差点で別れる際に列島患が言うことには、
「お前たち暇なら妹に会ってやってくれないか。何も聞かずに」
言われたほうに行ってみると見果てない原野を見晴るかす丘の上にスカートを広げて座り込んでいる美しい少女がいる。(お客様の口座から下記の送金が確認されました)娘魔夜香が話しかけると嬉しそうに首を傾げ、兄の友人たちであるとわかるとほほ笑んだ。
名を尋ねると百合烏賊と答えた。何をしているのかと尋ねると恋人の男の帰りを待っているのだと言う。
その男と百合烏賊は幼い頃からの恋仲で体が発育すると自然につがいになった。(モザイクのパズルはここですか)しかしお互いに何もかもが初めてでまったく無知だったから肝心のことはまるきりあべこべな仕儀と相成り、そういう仕儀と相成っていたことに気づいた時には既に引き返せないところまで行っていた。
男はこの悲劇を解決する知恵を求めて旅に出た。どこかでこの手の知恵に通じた女性から教示を受けて戻って来るのを百合烏賊は胸をふくらませて待っていると言うのだった。
男の名前を尋ねると或肌理ですと答えた。
話多志たちは或肌理を探しに行くことにした。娘魔夜香にいわくそれはヨッポド世界の果ての宝玉であったから。(QRコードが読み取れません)百合烏賊はぜひ私も連れて行ってくださいと言って立ち上がったがその拍子に彼女を飲み込まんとしていた大地が既にたくさん張っていた細い根がぷちぷちとちぎれて野原にへたばった。
討狂武士が根をいっそのこと全部引っこ抜くと百合烏賊の貧血はたちどころに治り、根の張っていた肌には凹みが出来たけれども悉くもともと吹き出物のあった場所だったためにきれいな平らとなった。
一行は町から町へと渡り歩き(コメント欄はどこですか)港町に探し当てたけれども或肌理はもうこの世にいなかった。或肌理の友人だという青年が百合烏賊の前にひざまずいて説明した。
或肌理は百合烏賊との約束通りある女に教示を受けたのだが、さんざん弄ばれて捨てられるというところまで学び進めたために彼の心は張り裂けた。
或肌理は傷心のまにまにある村へ流れ着き、そこの大地に自ら飲み込まれた。そのためその地方では作物が豊作になった。人口が増え人心が贅沢になり以前よりも不幸になった。
或肌理はその元凶としておまつりされ人々からひねもす呪詛を受けているとやら。(コメントは削除されました)
訃報を聞いて卒倒した百合烏賊を青年が介抱しているあいだに三人はその村へ行った。
逆さまに建てられた神社に或肌理をまつる玉が安置されて禍々しい地獄絵に飾られていた。三人は玉を奪うと港町に戻り、正気に返った百合烏賊を連れて帰った。
或肌理の友人の青年は待っているあいだに気絶している百合烏賊へ何かを捧げたらしかったけれども詳細は遂に不明であった。
帰郷の道中娘魔夜香は或肌理を破滅させた女を罵ったけれど、まだ頭のハッキリしない百合烏賊はその女と娘魔夜香をだんだん同一視するらしかった。(参戦! これまでの経緯を教えてください)
帰り着くと百合烏賊は或肌理をまつる玉を股の中に秘めて家に閉じこもった。
日が暮れてバーを開けた列島患は一連の話を聞いてとにかくありがとうと言い、ウイスキーを奢った。(地震速報です――)今度のことで話多志と討狂武士はめでたく地の果てにある宝玉を手に入れたことになったわけだったけれど娘魔夜香も同行していたので三人のうちの誰の手柄にするかサイコロで決めたところが娘魔夜香が勝ったためにけっきょく彼女は誰のものにもならなかった。
娘魔夜香は彼女を手に入れる次の条件を「種からいきなり生える空一面に枝葉を広げた老木を取って来ること」としたけれど、そう言いながらウイスキーを飲んでいるうちにだんだん話多志と討狂武士とどちらか一人に決めず、同時に二人のものになってもよいと思われ出した。
そのむねを伝えると二人の男のほうでもそれでよかったが、全員それでよかったためにかえってこの話は流れた。(副音声をONにする)
翌日はウイスキー工場が休みだったので飲み明かし、明るくなってから眠った。
半日ばかりぐっすり眠って起きてもまだ朝だった。四人の昔話は尽きず、その勢いで母校の中学を訪ねた。ほとんどが異動でいなくなっている中に誰の受け持ちでもなかったけれど美人で優しくて人気のあった苦治美流先生が残っていた。
四人を見てたいへん嬉しそうにした先生は思えばそれほど年齢も離れていないが、それよりもどことなく顔色がよくないのでどうされましたと尋ねると近頃親族間にあるトラブルが持ち上がっていててんてこ舞いなのだとか。
トラブルの内容はしかし分別深く謎に包まれた。(このリターンで支援する)
それよりも特に思い入れもない生徒会室に通されてお茶をいただきながら聞くには中学校が運営の危機に瀕しているそうな。
四人はこれを聞くとある熱意が生まれたがそれはこの問題を放置しようというものだった。
経営が破綻して廃墟になったら買い取って住もうという相談で、そのためには中学が潰れるまでにまとまった金を貯めておかねばなるまい。
苦治美流先生も乗り気で一枚噛むことに決まった。(今後に期待。)しかしその場で具体的な作戦を練ろうとすると校内放送のスピーカーを指さし、聞き耳を立ててるから放課後まで待ってちょうだいと言った。
待てど暮らせど破産しないので一同は悪評を流してみたり夜中に忍び込んでちょこちょこ壊してみたりした。また隣町の中学のいい噂を流し校舎を掃除し、毎年々々の生徒をだんだん外へ流した。
(I can`t understand what his words mean……)努力の甲斐あって母校はだんだん生徒も減り、教諭の意欲も削がれ、ますます経営は傾いて行った。
「このまま運べば破産しようが」と討狂武士。「我々の財布は未だ青ざめた肝疾患だ。廃校になっても買い取れない。別の野郎に買い取られるのを、指をくわえて見ていることになるぞ」
この問題を深く考えると話多志たちには気晴らしが必要だということがわかった。(見逃した!)気晴らしは計画と無関係なほどよく、無関係とは何かととことん突き詰めた結果、中学のオーナーに会いに行くことに決まった。
授業中の苦治美流先生を廊下に呼び出して居所を聞き、行くと果たして町の外れに古い大きな洋館が立っている。(お客様のメールアドレスがネット上に公開されています。下記のURLからご確認ください)門の前でまごまごしていると庭の手入れをしていた老婦人から正体を問いただされ、卒業生だとわかるとにこやかに招待された。
手厚いおもてなしをいただきながら話していて老婦人が身の上を打ち明けていわく親族を悉く亡くした孤独な身空で中学がなくなると生き甲斐を失って寂しいということだった。
話多志たちは作戦を中止し、母校の復興運動に転向した。(音が出ません)老婦人の洋館にも足繁く通う仲となり、苦治美流先生は近い将来の校長の座を約束された。
運動もむなしく中学校は破産し(♪♪♪)オーナーの老婦人は財産を苦治美流先生に遺して斎場の煙突から若々しく天に飛び去った。
苦治美流先生は相続した遺産をつぎ込んで廃校を買い取り、話多志と討狂武士と娘魔夜香と列島患と苦治美流先生の五人はおだやかに暮らした。建物のもともとの臓器は停止していたけれど正午のチャイムだけは鳴り続けていた。
かくして「種からいきなり生える空一面に枝葉を広げた老木を取って来ること」という条件は満たされたけれど、このたびも功労者は複数だったので誰の手柄にするかサイコロで決めた。
苦治美流先生が勝って娘魔夜香は先生のものになった。(これはいつの作品ですか)
*
校舎の屋上に立てたパラソルの下で話多志が目下のところの問題を数えている。
美術室を改装した自室の冷蔵庫が警報を鳴らすので故障かと思ったら卵が切れているのだった。
高価なフライパンを買ったらほかの人もしばしば使いに来てどこが誰の家であるのかは常に曖昧だった。(広告をSkipする)物語の終わったあとのように惰性の車輪が転がっているばかりだった。
強いて転がし直そうにも書物が途絶えた先の空間をめくろうと指は虚空をつまむばかりだ。
当番制に従って浴室やトイレの掃除に入れば娘魔夜香や苦治美流先生が使った直後には西瓜の清廉な空気があることや――娘魔夜香を手に入れた先生と娘魔夜香はもはや隅々まで匂いも同じであった――工場もバーもやめた列島患が溌剌と頬を薔薇色にしていることや(ここから出して)豪傑だった討狂武士が財産を細かく管理している姿。
夜の体育館で満天の星空の下に焚火をしながら――体育館の天井はぶち抜いてあった――話多志が列島患に尋ねた。
「百合烏賊はどうしてる?」
列島患は妹のことを話し始めると兄として威厳を増すやら妹を思って幼くなるやら、
「ずっと洞穴に閉じこもってるんだが、ある日幻の子を生んでずっと育てているようだ」
「その幻の子は彼女にとって吉だろうか凶だろうか」
列島患は眉をひそめて腕を組み、
「何しろ幻だもんだから、あるいは妹が枯れ切るまで乳を吸い続けるかもしれんな」
「ひっぺがそうか」
と娘魔夜香が言った。(番号札○○番のかた――)すると娘魔夜香を手に入れてから日に日に背の伸びている苦治美流先生が首を左右に振り、
「おそらく或肌理の記憶のために幻の子どもは恋人の臭みを含んでいるでしょうから、まあそのうち我が子から犯されて目が覚めるのを待ちましょう」
その実先生は百合烏賊が無意識的に娘魔夜香を憎んでいることを心配しているのである。
ともあれ待っていると果たして百合烏賊はある日何があったやら単身洞穴を出て来た。
しばらくは薄っすらほほ笑みを浮かべて野原を歩き回り、花を摘んで花輪をこしらえたりしていたが、やがて何かしっかりした大きなものを編み上げるふうになり、丘陵地帯の窪地の花畑の真ん中に完成した草花の甲羅の中へ今度はハコガメのように隠れてしまった。
もともと百合烏賊を欲しがっていた大地は草花の甲羅をたちまち新たな草花で覆い、そこは少し盛り上がった場所に過ぎないかに見えた。(以上臨時ニュースでした)
大地に飲まれた百合烏賊が地中で虫などに食われていないか心配した列島患がしばしば話しかけに行っているのだったがぽつぽつとは答えるとのこと。
異様に浮かれていたり詩をしか話さぬ時もあるが意想外にシッカリ受け答えするそうな。
「目は覚めたけど、あんなになっちまったわね。どのように引きずり出そうかしら」
そう恋人同士の女二人が相談していた。(懐かし過ぎる……)男たちは百合烏賊の行為を美しいと感じていたけれど女たちはそうは思わぬらしかった。
「荒療治しかないのはわかってるけどあの可愛い子にそれはとても出来ない。何か別の目的の手段として間接的に気がつけば成し遂げていたようにしたいものだわ」
そう言い合っていた。(紙魚より文字化けが、、、)
そのまま月日が流れて行った。
校舎の屋上に作った広大な森の中央の清らかな泉のそばで話多志が籐椅子に腰かけている。
機械文明の勝利によって山火事や海火事は確実に予防し切れるものになっていたけれど近年現れた空火事に人々は辟易していた。今もまさに燃えているがずいぶん上空であるから平気か。万一降りて来た時のために話多志はプールを見に行った。
(今から三日間オペレーターを増やしてお待ちしております)
プールには知らぬ間に虫がたいそう湧いていた。
虫はその小宇宙の中で苦労に苦労を重ねて栄え、(何階ですか)その功績により今では極めて深くなったプールの底には豪華絢爛な城が建ち、鯛やヒラメが舞っていた。
話多志の笛で集まった一同はみんな水底の城へ行きたいけれど、ちと深過ぎる。苦治美流先生によれば更にそれなりの手続きがいるのではとのこと。
それで花畑の草花の甲羅を掘り起こし、虫にも食われず苔にくるまって眠っていた百合烏賊に案内の亀の役を頼んだ。
倦怠から救済された百合烏賊は(PG-13 難解)一人ずつ背に乗せて城へと運んだ。
魚介類どもが優雅に舞いながら音階による韻を踏んで詩を朗読している。
至れり尽くせりの接待を受けて一同は帰って来た。
貰った箱を開けずにプールへ投げ込むと水は霧に包まれ、あたり一面白く濁って水底の城のその後はようとして知れなかった。
百合烏賊はまめまめしく話多志たちにお茶を運んだり後ろから花輪をかぶせたり校内放送で冗談を言ったり壁に落書きをしたりして過ごしていた。(♪蛍の光)話多志と討狂武士はこっそり彼女を口説いたが百合烏賊はどちらに口説かれている時も至福のほほ笑みを浮かべていた。
しかし兄の列島患が妹を守護していて話多志も討狂武士も百合烏賊を手に入れることは出来なかった。
そんなある日(出口はどこですか)隣町の幼稚園が破産し、数人の卒園生らによって買い取られ、退屈を持て余しているというので交流会が開かれたが何の実りもなかった。
お互い社交の感興をなかなか楽しんだには楽しんだけれどすんなりと別れてそれきり続かずに仕舞った。(回線が安定していないようです)
プールには知らぬ間に誰かに放され――犯人は討狂武士だとみんな睨んでいた――鯛やヒラメを食いまくった外来魚が大きく育ち過ぎて狭そうにうねうねと泳いでいた。
ちょうどその頃のこと政府が海に竜巻を挿して空火事を鎮火する放水をしていたのだが、地上がしばらく洪水になってしまい、水はどんどんせり上がって中学校を軽く浸した。
話多志がみんなの――とりわけシラを切り続ける討狂武士の――了解を得て外来魚を茶色く濁った大水の中に放つと怪魚はうねうねと彼方へ泳ぎ去った。
(あなたもまるで生まれつきのようなドイツ人とフランス人のハーフに――)
グラウンドに仕掛けた鳥の罠には七面鳥やウズラがまだ仕掛け終わる前から次々にかかるし、ライチの果樹園ではボトボト落ちる熟れた実を朝な夕なに網で一掃しないと堆積した底のほうは発酵・熟成しどんどん酒になってしまう。
酒は清らかな窪みに溜まっていくらでも汲まれ、たいへん美味で酔い心地もよく、飲んだ者の臓腑は癒され周囲の空間まで清めたけれど、この酒が密造酒に該当した。
この事実はひとえにバーを経営していた列島患がいるから発生した違法であって、彼がいなければそのような法律もないことであったがけっきょく露顕することはなかった。
話多志たちは美味な肉や果実を食い散らし、美味な酒で便所も流し、肉も果実も酒も大量に廃棄した。その九時から五時までかかる廃棄の作業が目下のところの本職といえた。
崖からどさどさ捨てる崖下には餓鬼どもが群がり、食っては吐き飲んでは下して苦しんでいた。
夜になると餓鬼どもの歌が崖下に木霊していたけれど(月曜の朝が憂鬱過ぎて金曜の仕事帰りに電車は遂に飛び降りた)木霊のほうが先に鳴るのに餓鬼どもがハモるのである。
話多志と討狂武士に花を贈られ詩を語られ命懸けの決闘を捧げられるうちにどんどん美しくなってゆく百合烏賊が、ある夕暮れ時、三人で散歩している時のこと、ふいに「素晴らしい夜景」を求めた。
話多志と討狂武士は「素晴らしい夜景」を求めて津々浦々探しに行こうと旅支度を始めたところが中学校から見えるのがいいと言う。それなので二人は校舎の屋上に立ち、眼下の森を見ながら相談をぶった。やがて木々を切り倒し土を掘って海を張り、対岸に人間を放牧して高層ビルの建ち並ぶまでに文明の餌を食わせ、とうとう夜には海面に七色の光を映ずる見事な夜景が見られるようになった。(コメントは削除されました)
けれども百合烏賊はしばらく眺めて飽き、もとの森に戻してと言う。話多志と討狂武士は相談をぶち、更に文明の餌を食わせて自滅するのを待った。やがて国破山河在、城春草木深、屋上の眼下にもとの森が広がった。
百合烏賊は静かなまなざしで森を眺めていわく、もう見れないと思うと美しいわ。目を閉じたら浮かぶし夢にも出るの、ステキな夜景をありがとう。
(迷子のお知らせです)森ではいくらかの鳥が昔々人間に飼われていた名残でいくらかの人語を鳴き交わしていた。
*
話多志はなかなかなびかない百合烏賊を諦めて、ある日妻を求めて俗界へ下り、一人の人間となった。けれどもいざそうなるとその日その日を乗り切ることで精いっぱい、本来の目的もおのが正体も忘れ果てた頃に職場の上司からお見合いを強いられて渋々出かけて行った。(本日の営業は終了しました)
紋付・袴を着込み、上司夫妻の後ろからのろのろと会場のホテルへ向かう。やがて両家の付属物が退いて二人だけで庭園を歩いている。
相手の女性は二十八歳で母門我といった。(お出口は右側でした)
一目惚れした話多志が情熱的に自らを売り込んで申さく、
「僕は結婚を一度しくじっています。子どもも一匹おります。養育費はあと七、八年は払い続けるでしょう。子どもが成人しても元妻は何やかんや要求し続けるかもしれませんし僕は断る気骨がありません。その金で車も買えましょうし大きな家のローンだって組めたかもしれませんがもうダメです」
母門我が答えて、
「かまいませんわ。そもそもわたくしなんてピザの容器の最後のチーズのカスみたいな売れ残りですけれど」
「何をおっしゃいますか。あなたとめぐり合われて幸福です。しかし僕のほうはたいへん安月給で。旅行らしい旅行などもなかなか出来ないだろうし色々な支払いに追われることになるでしょう」
「いいです。わたくしは家事がヘタで。ご経験ないかと思いますけれど毎日マズい食事っていうのはなかなか苦しいものですわ。それでいて人の作ったものは食べられませんから」
「へっちゃらです。それより僕は生え際もこの通りで、このままではちかぢか思い切った頭になりましょう。カツラをこしらえるのにあなたの髪を借りるかもしれません」
「そんなのいいわ。わたくしは歯並びが悪くって。こうしてお話しするくらいならいいのですけれど、笑いでもすると殿方はみんなぎょっとされるんです。ほらこんな具合に」
「ふむ。まあよかァないけれどもいいじゃないですか。僕はカツアゲを受けることがしょっちゅうありまして、そのたびにすぐ謝って金を渡します。無抵抗で従順だのにいつも最後には殴りやがる」
「弱虫なのね」
「大学時代は相撲部のキャプテンだったんですけども。小結まで行ったんですよ」
「だったらなおさら弱虫だ。いいわそんなの。わたくしは急に太って来て、おしりや下腹なんぞひどいものです。足もぶくぶくしてます」
「かまいません。僕は鼾がうるさくて。とても隣では眠っていられないかもしれませんよ」(コメントは削除されました)
「どれだけ起こされても起きないタチですから大丈夫。それより一緒に寝るとなるとわたくし毛深くって。何もかも埋もれてしまって肝心なものを見つけられるかしら。下手に分け入っては遭難するかもしれないことよ」
「何としても見つけますからそれはよろしい。ただもうおわかりでしょうがフラミンゴのような口臭でしょう。幼少期から歯みがきのし過ぎで歯石が鍛えられてしまって。乳歯の段階から歯周病で抜けました」
「わたくしが二人分歯医者に行けばいいだけのことですわ。わたくしのほうこそ腋やお尻のにおいと言ったら少女時代にそれがもとでカナリアが死にました」
「鳥アレルギーだったからちょうどいいな」
「わたくし服装が野暮で友人どころか両親さえ一緒に歩くのを嫌がるのよ」
「服より中身です。僕なんぞ今やタッパばかりあって女よりも体重が軽い青ビョウタンです」
「むくみやたるみがひどくてもう四十歳に見えるでしょ」
「えげつない水虫で、裸足でフローリングなんぞ歩くとよく滑って転びます」
「とんでもない外反母趾で親指が小指より外にあります」
「鼻炎がひどくてしょっちゅうズルズルすすっています。そのため血液も鼻汁まみれで小便にとろみがつくくらいです」
「よく大きなしゃっくりが出ます。ほんとに大きいの。始まったら止まらないの。人の大勢いる所や畏まった所なんかでは地獄よ。あんまり大きいのでみんなビックリなさって、わたくし以外のしゃっくりが一斉に止まるもんですからよけいに目立つの」
「髭が鎖骨まで生えます」
「遊んでないのに真っ黒です」
「食べ方が汚くてぼろぼろこぼします。食べ終わる頃にはいつも机に蟻がたかっています」
「パンツがいつも驚くほど汚れます」
「公衆浴場やプールには二度と入れません」
「ネットに裸を上げたことがあります」
「前科一犯です」
「性病です」
かくして二人は結婚した。(やほ)おのが正体を思い出した話多志が驚く母門我を連れて帰ると、中学校は外壁塗装工事が施されたことでかえって時代を超越した悠久の建築のような古色蒼然たる宮殿になっていた。
話多志が嫁探しで留守にしているあいだに大きな狸が一匹住み着いていたらしいが話多志が帰って来たのでもう出て行くと言い張った。(自動再生がONになっています)苦労人で人のいい狸だったそうでみんなは引き留めたけれど早く出て行かねばと尻に火がついたように言う。やがて火は背中まで燃え広がったので行かせてやるよりなかった。
(人身事故により××動物園から逃げ出した園長はまだ復旧のめどが――)
プールには相変わらず霧がかかり、向こう岸が見えなかったけれど、狸は颯爽と泥舟に乗り込んで霧の向こうへ漕ぎ去って行った。
母門我はこちらでは極めて一般的な容姿、すなわち古代の巨匠の手になる彫刻のような美しい面立ちに見え、香りも声もよく心は柔和で詩心に富んでいた。とりわけ百合烏賊と仲良くなり、二人でよく笑い合ったり手をつないで歩き回ったりしていた。
話多志の手に入れた母門我をじっと見つめていた討狂武士が自分も嫁探しに行くと言う。
「百合烏賊では駄目なのか。もうライバルはいないじゃないか」
そう話多志が言うと、
「あの子は無理だ。或肌理のことすらもう忘れてしまったようでな。誰のものにもなりそうにないよ」
そして握手を交わすと俗界へ降りて行った。
すぐに帰って来たと思うとろくに挨拶もせぬままその足で天界へ昇って行った。
話多志と母門我と百合烏賊が見果てない迷路のような庭園を散歩している。
苦治美流先生と娘魔夜香はめしべだけから成る花園を築かんとしていたのだったが遂に挫折し、けっきょく列島患を引き入れて色々な甘味に溺れさせていた。
その声の響きを途切れ途切れ遠く近くに聞きながら歩いていると宮殿に地下があるらしい。(モザイクのパズルはここですか)
昔々宮殿が中学校の校舎であった時もそこにあり、校舎が更に別の何かであった過去をも思わせる地下であった。(募金をお願いします)降りると広やかな空間である。
大昔に空から落ちて来たおむすびだと伝えられる石の玉が鼠たちに崇められていた。
一人の年老いた鼠が言った。
「五百年後には書かれているかもしれない奇跡の小説を読まれぬというだけでも死にとうなります。五百年前に奇跡の小説が書かれていたとしてもめぐり合えないのならいっそう死にとうなりますわい」
地上に戻ると大庭園の片隅で犬が地面に向かって吠えているから何か埋まっているのであろうと話し合い、ためしに放っておいたら時を経てその場所から木が生えた。(著者は存命ですか)
みるみる立派な老木になると花をつけ、その後に実ったのは大判小判であった。収穫せずに放っておいたらじゃらんじゃらんと地に落ちた。それをも放っておいたら犬は憤慨した様子で大判小判をくわえ、何度も往復してどこぞへ運び去った。
それから犬は毎年木が大判小判をじゃらんじゃらんと落とす時期になるとやって来てどこかへ運び去った。大判小判の実らない年はかつて中学のオーナーだった老婦人のお墓参りに行き、その遺灰を枯れ枝にまけば実った。
(北朝鮮から打ち上げられた北朝鮮は北朝鮮内に落下しました)
討狂武士が天界で妻を探しあぐねているらしいあいだに月から訪ねて来ていた愛裏院という御姫様をみんなでもてなしていた。愛くるしくおてんばな愛裏院はおもに百合烏賊と母門我と三人で少女のように遊んでいた。
ある日富士の山をどうしても見たいと言うのでもっと高い山がありますよと苦治美流先生が言うと愛裏院はぜひとも見せてくれろと頼んだ。
雲に乗るか羽衣を着るかして日帰りで行こうと言い合っていると歩いて行きたいとのこと。雲はどこからでも呼べるし羽衣も持ち運べばいいので一同は歩いて出発した。
道中に起きた冒険を記憶屋に売り払い、当人たちはさっぱりと忘れて富士よりも高い山にたどり着いた。大昔に空から落ちて来たおむすびだと言い伝えられるその山ではかつて洪水に放した外来魚が化け物になって暴れ回っており、ほかの生き物たちを困らせていた。
話多志と列島患が刀をかまえて化け物に対峙した。(アナログ放送でお聞きのかたは――)苦治美流先生と娘魔夜香は矢をつがえ百合烏賊は吹き矢をくわえ母門我は薙刀を振りかざし愛裏院は呪詛の札を地面にずらりと並べた。
ところが初手の頃合いを見計らって相談しているうちに判明したことには化け物の姿は話多志たちそれぞれに別々に見えていたし百合烏賊などは実は見えてもいないのだった。
そうとわかると一同は化け物を正しく見ようと眉に唾を塗り凝視した。
するとそこにいるのは天界で何かしくじって罰を受けている討狂武士なのだった。
見破られたことで討狂武士はもとの姿に戻った。
山頂に腰かけ、世界の隅々まで眺めながら話多志と列島患が討狂武士を慰めた。
そのうち空に月がかかった。みんなで煙草をのみながら月を見上げた。(13+ 喫煙)
その月から来た愛裏院は星々よりも高い天界に行っていた討狂武士に冒険談を聞かせてくれろと頼んだ。
討狂武士はまんざらでもないらしい様子で話して聞かせた。(閉廷)
一同は宮殿に戻り、ふたたび心楽しく暮らし始めたけれど話多志が母門我と百合烏賊に振り回され討狂武士が愛裏院と仲睦まじくしているのを物欲しそうに見ていた列島患がある日奮起して俗界に降りて行った。
(つまり熊と相撲を取る雀の舌をちょん切った蟹が猿にきびだんごを?……)人間になった列島患がアパートの畳に寝転んで海外留学中の妹から来た手紙を読んでいる。
読み終わると引き出しに仕舞い、かかりつけの心療内科へ出かけた。帰りに団地の小さな公園を通ると誰もいなかったのでベンチに座って煙草をのみつつ妹への返事を考えた。
そうしていると一人の子どもが列島患の前に立って睨みつけて来る。(いつも○○バンクをご利用いただきありがとうございます)
神経衰弱の著しい列島患は他者の圧力に耐えがたかったがこの子どもにはそれほどダメージを感じなかった。自分の縄張りの公園に若くして老け込んだ男が座っているので邪魔なのかしらんと思って立ち去ろうとした。(近頃○○バンクを名乗る詐欺が多発しています。詳しくは下記のURLをご確認ください)
すると子どもが、
「おじさん。イヤなもやもやがついてるから取ってあげようか」と言う。
列島患は薬のためにボンヤリと夢心地であったからよく考えもせず取ってくれと頼んだ。
子どもは何か仕草をした。(参戦! これまでの経緯を教えてください)すると列島患の意識はにわかに晴れ渡った。心身が平らかに調律されたかのようであった。
お礼を言おうとすると子どもはさっさと去ってしまった。救済とは言え自分の行為による列島患の変化が恐ろしかったのである。
それから列島患はよく海辺を歩いた。以前は治療として勧められてのことだったが空に落ちそうで怖かったのが今ではよくよく休まる。海辺の散歩は健常者にのみ治療の効果が認められ得るなあと思われた。
海辺はかすかに悪臭を放ちゴミばかりで必ずしも清潔ではなかったけれどゴミの中に財布など見つけることはザラだった。
また町を歩いている人々に「前世で貸した金を返してください」と言ってみると三分の一ほどの人が「来世では言ってくれるな」と言いつついくらか返済してくれた。
役所に申請すると許可されたので人通りの多い所に募金箱を置いた。するとかなりの額が集まったので列島患は自分のバーを持った。
どうにも俗界だけれども何かしら不明の助力が過剰にはたらいているらしいのはあの世で吉と出るか凶と出るか、現世の他者らに吉と出るか凶と出るかとボンヤリ考えつつバーを経営しながら暮らしているうちに年月が過ぎた。(コーナー復活しないかな)
連れ合いを激しく求めているうちに夢の中である女性とたびたび会うようになった。
ずいぶん深い仲になり、それからは夢と現実を逆転させることばかり激しく願ったけれども遂に叶わなかった。
夢と現実の逆転を模索する日々が続くうち、とうとう夢の中ですら会えなくなり、その代わり、ある日現実にもう一人の自分が現れた。
もう一人の自分と対峙して列島患は自分と相手とどちらかが死なねばならぬと悟った。
殺害に成功したとしても(雨雲が接近しています)徹底的に隠蔽せねばならぬと思った。
列島患は何も考えず我武者羅に攻撃し相手にもおのれにも有無を言わせず闘って闘って気づけばどうにか打ち倒していた。
死体を処分しなければならぬかと思われたがもう一人の列島患は死亡するとすぐに消滅した。生き残った自分と消滅した自分とどちらが本物であるか等々、悩めば何ものかの勝利になると思われて列島患は悩みを絞め殺したが、もう一人の自分を殺害したと同時に連れ合いを求める気持ちも消滅していたことには気づかなかった。
だらだらと過ごされる無為の生活で彼が為さなかった行為の堆積は、それにより彼に起こらなかった現象の堆積は、どこかでじわじわと凝縮していてある日彼に邂逅した。
すなわちいつものように海岸を歩いていた列島患は一人の若く美しい人魚と出会って恋し合い、幸せな逢瀬を重ねたのである。
*
列島患が宮殿へ人魚を連れ帰って来た。(やほ)
こちらでもそのまま若く美しい人魚であったけれど、どこに住むかの相談が決まらなかった。プールは相変わらず霧がかかり、今ではおぞましい魔界への通路のようだったので。けっきょく人魚は激痛をひたすら耐え忍び、全ての鱗を自ら剥いで人の足を得た。
人魚という著しい特徴を失って名前が必要になり、列島患と相談のすえ魅乳卑季と名乗った。
月日が流れた。(ニュースの途中ですが再放送をお送りいたします)
ある日突然愛裏院を迎えに来た月の人々は愛裏院と連れ合いになっている討狂武士を許さなかった。それは討狂武士がかつて天界へ行ったことへの嫉妬もあったろうか。
月の人々は宮殿の面々をしばらく見回し、やがて討狂武士に「百合烏賊がかつて幻の子を手にかけた罪で死刑に処される天命の身代わりになるか」と問うた。
討狂武士はしばらく百合烏賊を見つめたあと、月の人々に向き直って「なる」と答えた。
百合烏賊は激しく抗議したが兄の列島患がなだめた。全ては問答無用な、絶対的な階級の問題であった。話多志たちもただ黙って見守っているばかりだった。
かくして月の人々は討狂武士の首を刎ねた。
百合烏賊と愛裏院は天を拝みながら卒倒した。
愛裏院は月へ連れ戻され百合烏賊は苦治美流先生と娘魔夜香に介抱された。
魅乳卑季は討狂武士の亡骸を埋葬する手伝いを断られ、話多志と列島患の男のみによる墓掘りを眺めていた。
一切は人魚なんぞ連れ帰ったことに起因するのではないかと列島患は思い悩むことになる。(お電話代わりました)苦治美流先生の従妹の単磨豚という人が訪ねて来て、かつて親族間に持ち上がっていたトラブルが再燃したとのことで苦治美流先生は連れ帰られた。
トラブルの内容は最後まで謎に包まれた。(このリターンで支援する)
娘魔夜香はしばらくむせび泣いたがこれを慰めるうちにやがて娘魔夜香と母門我と百合烏賊とで三人の女神のようになって遊び回っていた。
話多志と列島患は討狂武士の奪還を企て、冥界の地図を買いに行き、綿密に調べ始めたのだったがある日母門我が子どもを宿したのである。
どうも父親は百合烏賊と娘魔夜香らしく男の血の混じらない完全なる女児が生まれた。
男たちはこれを養うために冥界の研究を打ち切り、これまでの成果を大学で教えながらサラリーを得た。(Network error!)かくして討狂武士の奪還は遥か未来に遠のいた。
完全なる女児は泥思惟と名づけられ、すくすく育った。
泥思惟の愛くるしいこと善良なこと独創的なこと天真爛漫なことには驚かされるばかりで、みんなはただその太陽に照らされるように雨に肥やされるように満ち足りて過ごした。
母門我と百合烏賊と娘魔夜香の三人に対して魅乳卑季は付き従う下僕のようであり、愛玩される小鳥のようであり、妹を取り合うように扱われたが泥思惟が最も魅乳卑季を慕うので魅乳卑季は最大の威厳を得ていた。
泥思惟にあまり触れさせてもらえない話多志と列島患は休日にはライチの酒を飲みながらカード賭博ばかりしていた。時おり三つ目の席に影のない討狂武士が腰かけていた。
(モザイカズのパズラズはここですか)
モザイカズのパズラズ事件からどれくらい時が経ったであろうか。討狂武士のことを思い出す人はもういなかった。
話多志と列島患は町内会から依頼された家庭裁判所の仕事に従事して世間の様々なイザコザを眺めつつ過ごした。(ここから出して)休日には二人で映写室にこもり、過去から未来にわたる全ての高校野球の生中継を観戦しながら松茸のビールを飲んでいた。
母門我と魅乳卑季は宮殿で永遠に過ごすよりも俗界で年老いて死ぬことを望んで帰って行った。
娘魔夜香と百合烏賊は泥思惟をゆっくりと育てた。
今や宮殿には新たな中学生たちが通い、めいめいグロテスクな思春期の悩みを頭の上にぽろぽろと咲かせている。
話多志たちはどの階段からも登られぬ最上階と屋上庭園で暮らしていた。生徒たちの喧騒はそこでは静かな野鳥のさえずりであった。
ある日突然一人の女子生徒が屋上庭園に現れた。
「どうやってここに来れたの?」
そう娘魔夜香が尋ねた。女子生徒が答えていわく、
「校舎の屋上から飛び降りたらここに降り立ちました」
とのこと。次いで名を尋ねられ、芽空虚湖と名乗った。
「私以外の生徒を一人残らず退学にしてください」
そう頼むから列島患が答えて、
「まあ待ちなさい。循環だの無常だの近頃ずいぶん悪い咳をしているから放っておいてもそのうち御陀仏するだろうさ。それまでここで遊んでいなさい」
しかし話多志たちに比べて圧倒的に短命な芽空虚湖はすぐさま一切に飽き、その時が来るまでどこか都会で待ちたいと言う。話多志と列島患は相談をぶち、大学と家庭裁判所から退職金をもらってある原野を買い取ると人間を放牧して文明の餌を食わせた。(浴室のカビにもどうぞ)やがて原野は摩天楼が建ち並ぶ大都市に生長した。
宮殿には百合烏賊と泥思惟が残り、話多志と列島患と娘魔夜香と芽空虚湖の四人は摩天楼の一つに部屋を借りた。
(師匠にしてください)宮殿では美しい乙女に育った泥思惟と相変わらず夢想の天空を漂う百合烏賊が屋上庭園に流れる川の畔に並んで釣り糸を垂れている。
プールは生徒たちが騒がしく泳いで霧を晴らしてしまい、太古の狸の骨が底に沈んで水を綺麗にしていたことが発覚した。
狸の骨ではなく溶けた泥舟のバクテリアによる浄化だと自由研究で明らめた生徒は生徒たちの署名活動により放校処分になってしまった。
大都市では話多志たち四人が毎日せわしなく暮らしている。(闇サイトから保護するため、お客様のパスワードを入力してください)
話多志と列島患は国営テレビのドラマの脚本を書き、娘魔夜香と芽空虚湖は夜空に吊り下げる巨大なシャンデリアの超世紀的な建築に参加して、家政婦をようやく一人雇っていた。
やがてテレビ局が怒り狂った民衆から打ち壊されて話多志と列島患は失職した。
しばらくは家でごろごろしていたけれど大都市の空気の中ではいつまでも無為ではいられなくなり、話多志は母門我を探しに俗界へ下った。
続いて列島患も魅乳卑季を探しに俗界へ下った。
娘魔夜香と芽空虚湖は摩天楼に残って男たちのいなくなった生活を満喫していたが、男たちの帰りをかなり真剣に待っていた。
話多志は母門我を探し当てたが彼女はもとの姿に戻り、そのまま年老いて独りで施設に入って暮らしていた。
話多志も俗界の姿になり、年老いて入所し、緑いっぱいの庭のベンチの隣に腰かけて話しかけたけれど母門我は何も覚えておらず(♪♪♪)話多志にも特に反応しなかった。
庭の池を眺めながらどこかしょんぼりしているからそのわけを尋ねると、ひそかに名前をつけて可愛がっていた鴨が夏を前に飛び去ってしまったのが悲しいのだそうな。
「次の冬には戻って来ると思いますけれど、それまで生きていられるかどうか」
それで話多志は別れを告げると鴨になり、施設の池にひねもす浮かんだ。
母門我は嬉しそうにしばしば見に来たけれど露見してはいけないので懐きに行きはせず、ただただ姿を見せていた。
母門我もそれで満足しているようだった。
秋に亡くなった。
話多志はねんごろな供養をして去った。
(――『これまでの経緯を教えてください』ですが、過去には戻れませんが未来はこれから現れて来るのでお答え出来るかと存じます。※以下ネタバレ――
ェえ、まず列島患も俗界に現れて、海の底に降り立って魅乳卑季を見つけます。ところが彼女は夫を持ち、子どもも持って暮らしていた。
魅乳卑季を奪いに来た列島患に対して全ての人魚たちが三つ又の矛で襲い掛かって来るのを、列島患は片っ端から石にして行きます。石になった人魚たちはそのままの姿勢で沈んで行きます。
遂に再会すると魅乳卑季は列島患のことも宮殿で過ごした日々のことも覚えていません。
それで列島患は諦めて、海溝の底に積み重なった石たちをもとに戻そうとしますが、その無防備な背中を魅乳卑季が「仲間の仇!」と矛で貫く。
列島患の亡骸はマッコウクジラに食われ、宮殿の屋上庭園に一輪の花だけが帰還します。
そうとは知らない泥思惟と百合烏賊が摘み取り、押し花にして二人が秘蔵している恋愛小説に挟みます。
大都市の摩天楼に話多志だけが帰る。娘魔夜香と芽空虚湖は喜んで迎える。
家政婦は相変わらず高給を取りながら緩慢に家事をしている。
芽空虚湖が花嫁修業で作った小槌が、叩けば叩くだけ小判を出す。
話多志たちはこの小判で好きなだけ買い物が出来ましたが、家政婦だけは小判による支払いを頑なに認めません。ただ、両替機で紙幣に換えて渡すといくらでも受け取る。
娘魔夜香も芽空虚湖も列島患の帰らないことを悲しみます。
悲しみ続けるうちに娘魔夜香が母となり、芽空虚湖が娘となって、父親は帰らぬ列島患となり、話多志はあくまで母娘の慰め役となります。
かくして妻と娘を得損なった話多志は、独りで三つの椅子を並べ、カード賭博をするけれども二つの席はいつまでも空いたままです。
列島患の訃報を聞いて悲しんでいた泥思惟と百合烏賊の釣り糸を垂れている屋上庭園の川に、お椀に乗った小さな青年が流れて来たのを、二人は石を投げて転覆させるが、その溺れる叫び声はどこかで聞き覚えがなくもなかった。
話多志が冥界の地図を引っ張り出して来、旅行会社に足繁く通うのを女性たちは快く思いません。しかし遂に旅立って行くのを見送る目には涙が浮かんでいた。
話多志が去ると泥思惟と百合烏賊は全ての生徒を渡り鳥にして追い出し、静かになった屋上庭園で、記憶屋から買い戻したかつての冒険談を読みふける。押し花の栞は出て来ません。芽空虚湖と娘魔夜香は大都市で代わり映えなく暮らします。
如何なる空間よりも広く、如何なる時間よりも長く、如何なる真理よりも正しく、如何なる幻想よりも美しい旅路のすえ、黄泉の国へたどり着いた話多志はこの世に生まれます。
胎内で話多志は、時には如何なる無よりも無くなったし、如何なる破綻よりも成り立たなかったし、如何なる均衡よりも保たれていた。
如何なる変化よりも変わったし、如何なる保存よりも残されたし、如何なる創造よりも作られたし、如何なる根源よりも先立ったし、如何なる維持よりも続いた。
同じことが繰り返されたことは一度もなかったし、そんなことは何度もあった。
そうして生まれて、育って、成人する。
ある日、小雨の降っている朝、私は刑務所へ中学時代の友人に会いに行きます。少し話をして帰り、バーに入って、友人を脱獄させる空想を、むなしく描きながら終わります。
――以上、ご参考まで。)
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(違反を通報させない)(これは誰の作品ですか)(出して)(参戦! これまでの経緯を教えてください)(予備校で流行ってたな)(さすがの画質 泣)(excellent!)(今後に期待。)(やほ)
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