〆切が近づいているのにマッタク書けていなかった。
これはあかん。
あまりあかんので友人のYに相談した。
無類の読書好きな男であった。
そのYに紹介されたアプリなのだった。
なんでもAIが代わりに小説を書いてくれるとやら。
「そういうものがあるらしいということは、何となく聞いていたけれども」
するとYは呆れたように、
「君は我流が魅力だが、そのぶん無知なのが玉に瑕だ。聞いて驚け」
聞いて驚いたことにはこのアプリ、その名を《アレクサンドリア図書館》といって、文体やらジャンルやらを設定し、展開だの人物だのの漠然とした希望を入力し、決定を押すだけで、お望みとあらば原稿用紙一万枚の長編が、ほんの数秒で書かれるのだそうな。
壮大で矛盾のないプロット、魅力的で複雑なキャラクター、見事な伏線の回収、精緻を極めた時代考証、豊かな色彩・触感・奥行き、匂って来るような風景描写、哀愁、もののあはれ――しかし何と言ってもスピードとスタミナさ、疲れ知らずで大長編を楽々書くんだからな、内蔵された無数のAI読者と辛辣なAI批評家があらかじめ熟読し、前以てお墨付きをもらった一級品ばかりをね。
「しかしそんなものを使ったら、俺が書いたんじゃないってバレやしないか」
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