――それで終わった。その後もあるらしかったが、確かに最後の一冊ではあったし、朗読は二人に任されていたので、終わりであった。
何よりも、読み飛ばされた分量が相当なものだった。中には、おっと言うような花が咲いているところもあるに違いない。けれども陽が当たらなかった。
土橋さんのお宅にお邪魔した時の印象を思い返すに、電気ガス水道が止まっているとか、そんな気配は感ぜられなかった。我々五人のほうが卑屈で、向こうが毅然としていたが、そんなに殺伐とした感じも受けなかった。確かに電気はつけていなかったし、飲み物も出されなかったけれど、いきなり押しかけたこちらの無礼にかなった空気だった。
決まっていると言われていたラストが書かれているのかどうかも、判然としない。あれでそういう終わり方だったのか。我々の闖入が意想外に中絶させたのは確かであるが。いやしばらく前にやめていたのだろうか。日記が、その性格上、こういう終わり方しかなかったのも確かであった。我々がちょうど終わったところにタイミングよく現れるような救世主でないことも確かであった。何でもかんでも確かであった。
土橋さんの日記をどうすべきか話し合った。
「燃やしたるんがええ」と庄原。
「あかん」と半田。
「でも、持っとくのも悪いやろ」
「うん……」
「返すんか」
「みんなで読んだあとに返すんもあかん」と貴崎さん。
「何でや」
「何でかは、よう言わんけど。よくわからんけど」
「正直、土橋さんのとこに戻るの怖い」と川野さん。
「何で怖いんな」
「そんなん……」
友だちが颯爽と救い出しに来ることを夢見ていた箇所があったはずだった。これはSOSであり得るか。それにしては長大過ぎる。あの箇所を掘り出してもらえるとは限らぬ。それにあの、もう来ないでくれというじっさいの言葉、背後に隠れた訴えがあったとしても、面と向かって言われた我々はもはや立ち向かわれなかった。
今頃待たれているのであろうか。そんな大事に巻き込まれてはならない。ここまで大きなことになるとは思いもしなかった。何にも思ってなんかいなかったのである。
けっきょく、燃やすべきだと一致したが、いくら一致しても、行為として、そこまではできなかった。後部座席の隅に置いておいた。
浅谷童夏 投稿者 | 2025-12-16 20:32
一語一語、一行一行が突き刺さってきて、ものすごく揺さぶられました。誘い込まれ、傍観せしめられ、触れてみようとして拒絶され、叩きだされそうになって縋りついた、みたいな読書でした。
町田康さんをちょっと連想しましたが、彼よりもっと無垢で純度が高く、研ぎ澄まされている感じがします。素晴らしいの一言です。