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夢の中の私はいつも少女なのです。
白いレースのキャミソールに色の淡いシフォンのセットアップ。ふわふわと羽根のように軽いドレスはそよ風にもさわさわ揺れる。髪の色は薄く、肌は透き通るように白い。子供でもなく大人でもない年頃で、無邪気でもなく、醒めてもいない。私らしさなどどこにもない。でも、それが私だとわかるのです。私、私、私。
私は彼女のような少女に憧れているのでしょうか。
可愛いとか、儚いとか、自分とは相容れない存在を、どうしたって手が届くことのない存在を、私は心のどこかで求めているのでしょうか。
私である少女は、きっと私の記憶のどこかに棲んでいるのでしょう。幼い頃に絵本か何かで見かけたのでしょう。彼女への感情移入が、そのまま姿を乗っ取って記憶の奥底に隠されたのでしょう。それとも、その逆なのでしょうか。夢の中で私を語る彼女が私を侵しているのかもしれません。私は心地よくされるがままに浸食される。
悪くない気分なのです。
どうせ夢でしかないのです。私が私のままでいる必要などありません。私は誰かになればいい。誰かが私になればいい。私、という言葉は、それを口にした誰かのものです。そこに同一性などなくてもかまわないじゃないですか。夢での私はただの少女なのです。それ以外の私はどこにもいないのです。現実とか、事実とか、そんなのは夢の裏返しでしかありません。ありません、よね。
目覚めてしまえばほとんど忘れてしまうことを知っていながら、微かに残った夢の残滓はとても愛おしい。楽しいことばかりではありません。目覚めた時の悲しい余韻。苦しいさから解放された安堵感。思い通りに進まないもどかしさ。むしろそんな思いの方が強く印象に残っているけれど、それすら私には悦びなのです。少女の悲しみや苦しみは、無垢だからこその結果です。
砂糖細工のように壊れやすい夢の世界は、夢の中で私を騙る少女の記憶によって作られているのではないかと、そんなことも思うのです。見たこともない景色をずっと昔から知っている場所のように思います。出会ったこともないひとが、とても親しい友人なのです。私は思いのままに振る舞いながら、少女の意識と無意識をたぐっている。私は自分で考えて行動しているように感じているけど、それは少女の思いと仕草に操られているだけなのかもしれません。それでもかまわないのです。どうせ私の意識など、誰かに作られたものなのじゃないですか。あたかも自分自身の力で育んでいるように感じていても、確かに数多くの選択肢があって、そのひとつの選択が大きく私の姿を変えてしまうのだとしても、そのとき何かを選んだのは、私だけの意志ではないの。いくつものいくつもの意志の重なりを感じるの。
あなたもそう感じているのではないですか?
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