ラジオ英会話で学ぶ「竹取物語」(‟The Tale of the Bamboo Cutter‟)

合評会2022年03月応募作品

Juan.B

戯曲

2,324文字

 

「NHHK日本反放送協会ラジオがお送りするラジオ英会話、第37564回となりました。英会話講師の草井満子でーす!」

「Hello! My name is Judas Iscariot! I’m happy to talk to everyone.」

「ねえジューダさん! 今年度は、『死んでるけど生きてる英会話』というテーマだけど、先週はシェイクスピアのオセロの話をしたね」

「ソウデスネ。後半で満子サンがしていた、デズデモーナの役、良かったヨ」

「やっぱりね、外国に行った時、その国の古典文化はもちろん、自分の国の古典文化についても紹介出来るって、すごく楽しいと思うんだ! だから今週は、日本の昔の物語を、英会話で説明したいと思うんだよね!」

「Very Good! 何をお話してくれるノ?」

「日本で最も古い物語の一つ、‟The Tale of the Bamboo Cutter”をやっちゃおうと思います!」

 

……世間の男と言う男は、皆、かぐや姫の美貌に惹きつけられた。最後までかぐや姫を諦めなかったのは五人の男達であった。石作皇子、車持皇子、右大臣阿倍御主人、大納言大伴御行、中納言石上麻呂である。かぐや姫は、貴重な宝物を持ってくる事が出来た男と結婚するとして、男たちに難題を申し付けたのである。石作皇子には「仏の御石の鉢」、車持皇子には「蓬萊の玉の枝」、右大臣阿倍御主人には「火鼠の裘」、大納言大伴御行には「龍の首の珠」、中納言石上麻呂には「燕の産んだ子安貝」を持ってくるようにと。男たちは無理難題を承知で動き出した。

「Wow, it’s hard!」

その時、奥崎謙三の運転するトラックが、かぐや姫の邸宅に突っ込んだ。石作皇子、車持皇子、右大臣阿倍御主人、大納言大伴御行、中納言石上麻呂はそれぞれ四肢が飛び千切れて死に、脳髄と内臓が柱や畳に飛び散った。かぐや姫は間一髪邸宅の隅の空間に縮こまって収まり難を逃れたかに思えたが、奥崎謙三がドアを開けるとその角に頭をぶつけ、額が割れて脳髄が露出し、血を吹き出してのたうち回った後に死んだ。翁は、便秘で死んだ。

「こんにちは、奥崎謙三です」

「Hello! My name is Judas Iscariot! I’m happy to talk to everyone.」

「あなたは英語を喋るんですか。ジーアイ、カムガン」

「oh! When I was a kid, I played with GI Joe.」

「ちょっとちょっと奥崎さん、番組に乱入しないでよ! どうするのコレ。かぐや姫死んじゃったよ」

「人は死ぬ。必ず死ぬ。絶対死ぬ。死は避けられない。良いですか。死ぬんです、人は襤褸切れの様に死んでいきます。あのね、かぐや姫って貴族でしょう。貴族も死ぬんです。平等に。あなた知ってますか。メメントモリって」

「それラテン語でしょ。ここは英会話なの。はい、ジューダさん、仕切り直し。Reset」

 

かぐや姫の脳髄が朝廷に献上された。帝は、在りし日のかぐや姫を忍びながら脳髄を食べた。帝は食中毒になり、生死の境をさまよった。しかしその時、朝廷に一人の救世主が現れた。麻原彰晃である。麻原彰晃は加持祈禱を行い、帝の容態を回復させた。

「Oh, it ’s the best.」

「バカヤロー!」

奥崎謙三が麻原彰晃を殴ると、麻原の巨体が傾き、帝を押し潰した。何か絶望的な音がして、帝は骨と言う骨が折れ血を吐いて崩御した。跡を継いだのは劉禅である。諸葛亮は北伐を行う決意を示し、出師表を上奏した。

 

出師表

臣亮言。
先帝創業未半、而中道崩殂。
今天下三分、益州疲「ちょっとちょっとちょっとちょっと」

「麻原彰晃です。みんな、ヴァジラヤーナ、してるかな?」

「ちょっと」

「此誠危急存亡之秋也」

「ちょっとそこの中国の方も静かにして。ここは中国語の番組じゃないから。この番組が危急存亡のときだから」

「今は春だぞ」

 

帝の遺体を陵に葬ると、夜な夜な陵が怪しく光り出した。当時の人々は知らなかったが、そこはちょうどウランが豊富に含まれている山であった。帝の遺体に放射性物質が蓄積していき、ある日生まれたのが怪獣ミカドンであった。これは本居宣長が「玉くしげ」で予言していたもので、明るい朝廷が開かれていない時に日本に現れる害獣である。腹の中に四つある放射能ぶくろから緑色の光線を作り出すのが特徴だ。どうするウルトラマ「ちょっと」

「明るい朝廷って何でしょうね」

「There was no equivalent of “Magna Carta” in Japan before the war. Japanese politics is very late. With this, it would not be possible to hope to become a permanent member of the United Nations. What should i do?」

「We will have no choice but to make Japan the 51st state of the United States.」

「What is required of Japan is its role as an unsinkable aircraft carrier. 」

「Next time, let’s talk about “If Japan becomes the 51st state of the United States?”. I’m really looking forward to it.」

正常人間、直接にもちろんのこと、間接にも、他の人間の生命や物を奪いとらず、すべての地球人の精神肉体を、無限に向上させるという、大きな目的を持ち、それを追求する手段として、競争よりも、協力を選択する者である」

「Bye!」

 

(終)

2022年3月21日公開

© 2022 Juan.B

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"ラジオ英会話で学ぶ「竹取物語」(‟The Tale of the Bamboo Cutter‟)"へのコメント 12

  • 投稿者 | 2022-03-22 23:03

     ぶっ飛んだ内容で、読者によって好き嫌いが分かれるタイプの作品だと思うが、個人的には変な夢を見ているような感覚で楽しめた。実際にはあり得ない出来事なのに頭に情景がリアルに浮かぶのは、作者の筆力によるのだろう。ただし、アウトサイダー的な有名人を物語に使うのは、登場人物の造形をサボっていることでもあることを留意したい。また小説というより又聞きの話のような文体が悪いわけではないが、そればかりだと読者に飽きられやすいというリスクがあることも頭の隅に入れておいて欲しい。

  • 投稿者 | 2022-03-23 09:57

    ラジオ英会話の番組にある、妙に丁寧な日本語と、教科書っぽい英語の入り混じる感覚が、見事に昇華されていると思いました。
    ラジオ英会話を小道具として使うのではなく、そのままそのリズムを小説に取り入れたのは素晴らしいと思います。

  • 投稿者 | 2022-03-25 22:05

    何か絶望的な音がして、っていうこの部分が最高に好き。最高にcool!Becool!

  • 投稿者 | 2022-03-26 00:23

    大正時代の前衛詩やプロレタリア詩のような暴力性があって良かったです。春だからなのでしょうか、今回はどこかしら狂気を感じさせる作品が多かったような気がします(もちろん良い意味でです)。自分ももっと狂わないといけないなと思ったものでした。

  • 投稿者 | 2022-03-26 05:02

    「明るい朝廷が開かれていない時」っていう言い回しが好きでしたね。好き放題やっているように見えて、話が破綻するスレスレで戻ってくる感じが面白かったです。戻ってきた着地点も無骨なまでに真面目で筆者らしい。

  • 投稿者 | 2022-03-26 17:34

    竹取物語の換骨奪胎というよりも、裁断してバラバラにする意図を感じます。なるほど、日本古来の物語の解体には怪しい人物たちの奇行が必要だったということですね。
    所詮、物語は借り物やジャンクでできているということでしょうか。

  • 投稿者 | 2022-03-26 20:56

    草大福を大量に食べた上、日本酒飲み過ぎて寝た時に見た悪夢みたいなお話です。奥崎謙三だけがぶれないところがさすがです。かぐや姫の帝の後に劉禅が出てくるあたり歌舞伎の影響でしょうか。ユダさんにも活躍してほしかったです。小林TKGさんと同じ感想になりますが「何か絶望的な音がして」のくだりが最高に良かったです。
    草井満子さんが結婚して改姓して黒井満子さんにならないかなと密かに期待しています。

  • 投稿者 | 2022-03-27 21:00

    おなじみの登場人物が出てくるが、シュルレアリスティックな展開で新境地を開いている。勢いがあっていい。自動筆記か、それとも靖彦さんあたりにクスリを調剤してもらったのか? ふだん長く書くタイプだから、短くて読みやすいのもすごくいいし、ありがたい。

  • 投稿者 | 2022-03-28 12:50

    真面目に不真面目な文章ですね。いや、キマってます。サブカルのアートみたいな。
    ネットスラング?のあらゆる物語の途中で「不幸にも黒塗りの高級車に追突してしまう」が割り込んでくるやつを思い出しました。

  • 編集者 | 2022-03-28 14:28

    奥崎謙三が麻原彰晃を殴った場面で噴き出しましたw乾いた暴力はいいですね。このまま突っ走ってほしい。

  • 投稿者 | 2022-03-28 15:17

    どんなブツならこんなにガンギマリで書けるのか後学のために拝聴したく候。

  • 投稿者 | 2022-04-04 22:12

    個人的にたまらないスピード感でしたw思わず吹き出しました。個人的にはパンチの利いた登場人物たち、大好きです。

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