課題範囲まで読んで、鬼界は優しい世界(?)を作ろうとした今津唯の父親である今津正及びその妻、またはクォーカそのものを指していると読めたが、帯で恩田陸が「すべてを覆す大どんでん返し」(実際にコメントを寄せたのは黒字の箇所だろうけど)と書いているので、クォーカは鬼界に操られていたとする角度から推理を展開することにした。
「観測者」である須崎猟が鬼界と邂逅した場面で鬼界は高校生か大学生に見えると描写されている。しかも女である可能性も残した記述だ。その描写から鬼界が今津正やその妻であるはずはなく、猟と握手する場面がヒントになると考え手首に自傷痕がある人物はいないか探したが候補になりえる人物を見つけられなかった。今津正の登場が唐突であったように、おそらく鬼界も課題範囲内に出てこない人物なのだろう。もしかすると猟が会った人物は鬼界本人ではなく、鬼界に操られた人物なのかもしれない。
鬼界の右腕として動くタチバナのは「部外者」月浦紫音か「変革者」である鳥飼仁の上司、相生を候補に挙げることが出来る。紫音は突然唯に絡んできたことから怪しく思うが「部外者」の項の地の文に嘘がなければ、兄一真と共に鬼界と対峙している存在のようだ。よってタチバナは相生と考える。これまた課題範囲内に出てきていない人物の可能性もあるが、それだと推理する事柄がなくなってしまうのでタチバナ=相生とする。
鬼界はクォーカを使用しているIPアドレスを特定するだけでなく、利用者の個人情報すら取得できる。であるならばクォーカアプリ自体がトロイである可能性が高く、クォーカを提供している株式会社クォーカ社長である今津正や副社長の妻が鬼界と繋がっているのは疑いようがない。しかし、そんなアプリが審査に通るはずはなく、グーグルやアップルも鬼界に取り込まれている可能性が高い。また、猟は今津唯との対決の前に美野島玲を模したAIに話しかけるが著作権云々で断れてしうことからオープンエーアイすら鬼界に取り込まれている。
と、ここまで書きながら推理を進めてみたが、「鬼界やべえ、絶対かなわねえよ」としかならなかったので、デウスエクスマキナ的な解決で締めようかとも思ったが、方針転換して恩田陸が言う(言ってないと思うけど)「すべてを覆す大どんでん返し」が何なのかを考えることにした。
物理トリックが介在しない本書において、もっとも効果的などんでん返しは叙述トリックである。帯に大どんでん返しと書かれた小説の九割は叙述トリックだと言っても差し支えない。細かな分類はあるが叙述トリックは大別して「時間の誤認」「空間の誤認」「人物の誤認」に分けることが出来る。一つ一つこの小説に当てはめて考えてみることにする。
まずは「時間の誤認」である。項によって時間が前後するため、最初はこの手で来るのかと訝しんで読んだが、猟が被害者を殺害した日時はしっかりと記載されており、物語における時間軸はぶれていない。実は年を跨いだ日時だったなどといったアマチュア作家が考えそうなことは考えなくていい。
次に「空間の誤認」だが、A地点だと思っていたことがB地点であったというのはありえる。課題範囲の最後に唯が猟と対峙するまでに一真は唯と通話している。無線通信と違いケータイの電波は離れた場所であっても近くにいるように錯覚させることが出来る。一真が遠く離れた場所から唯と話していたとしてもおかしくない。だが、一真は何のためにそのようなことをしたのか、そうせざるを経ない理由があるのかもしれないが、納得のいく答えを見つけられなかった。また、先に述べたように地の文に嘘がなければ一真は「部外者」である。
最後に「人物の誤認」だ。Aだと思っていた人物がBであったり、男だと思っていた人物が女だったといったトリックである。候補に挙がるのは影の薄い月浦紫音、鳥飼仁、相生であり、その内誰かが主要人物と同一人物という可能性はありそうだが、先に述べたように相生がタチバナだったとしても、それだけでは恩田陸が言う(言ってないよね)「すべてを覆す大どんでん返し」にはならない。ああ、そうですかとしかならない。紫音も地の文が全部嘘でしたみたいなことがない限り他の人物に充てることはできない。残るは仁だが、仁は物語に深くかかわっているようで実はそうでもなく、このサブストーリーいらないんじゃね程度のかかわり方しかしていないが、内々だけで通用する名前を使っている人物もいないため、他の人物に当てはめることが出来なかった。
以上のことから、恩田陸が言う(……)「すべてを覆す大どんでん返し」の答えは見つけられなかった。
降参。
"SNSは怖いよね"へのコメント 0件