混詩 「思い出すには遅すぎるために」 2018.10.08

混詩集 (第4話)

Juan.B

1,108文字

※まず今や悩みと苦しみから解放された知人に捧ぐ R.I.P
※その残りかすを親愛なる「ふつーの日本人」達に捧ぐ

これは俺が知人に出した答えである
だが答え合わせは行われない

誰も死ぬために生まれてきたわけではないと信じたいが

君は死ぬことが一番幸せだったと言うなら止められない

 

忌々しい国の生々しい時に生まれたために

単に社会人になるよりも痴呆になるよりも

生々しく社会と人間の輪郭を見せつけられ

俺は全く卑屈な笑みを浮べる事しか出来ず

君の顔を忘れたころに君は死んでしまった

そして今頃君の死に顔を良く思い浮べるぞ

 

もし君の家が俺の記憶のままなら

暗い団地の一室

ベランダ

サンポールとムトウハップ

なんでもいい

人間が死ぬのに手間は要らない

縄も高度も薬品も実は関係ないのだ

国と文化が君を殺すのだ

国と文化が俺を呪うのだ

 

金にも恋にも悩む前に

もっとも根本のこと

他人が決めつけてから自分もそうだと思わされるもののために

出自から根こそぎ朽ち果てさせられたもののために

 

俺が性器の名前を叫び人生を楽しんでいた14歳の時に

君はこの身辺の有様に気付いて言葉もない15歳だった

俺がこの身辺の有様に気付いて卑屈に屈む17歳の時に

君は苦しみや悲しみから解放された永遠の18歳だった

俺が地団太を踏んでガキの様に喚き回った19歳の時に

君は苦しみや悲しみから解放された永遠の18歳だった

俺が警官の面白クイズに追われ君の死体に蹴躓いた時

君は返事も答えも奇跡も起さず俺を見つめる18歳だね

 

君を否定しそして君から否定された社会は

今日も我々に社会に混ざることを要求して

だが我々の混ざりを学術標本のように扱い

死に遅れた俺は精神が腐って情けない有様

 

君は君が嫌だったであろう日本における最高の日本人になった

政府も天皇も広告代理店も君を称えるべきだ

日本のために死んだも同然だ

社会が拒んだ奴が社会を拒んで何も成し遂げないうちに死んだのだ

お前ら一般の忠良臣民をだれ一人傷付けることなく安らかに死んだ

おい自他ともに認める社会正義に根差した美しい日本人ども早く万歳を唱えろ

お前らの敵が死んだのだぞ

何一つお前らの社会の歯車を傷つけることなくわずかに残された片隅で

それとも名誉の戦死や特攻でもしないと喜ばないのか

東京の真ん中の空洞はそのためにあるのか

 

俺は気付くのが君より数年遅すぎて

もっと地獄の季節を味わったために

死ぬ潔さって奴を選べなくなったよ

そして今や社会に影を落としている

この影が社会を狂わせてくれる様に

この影が他の誰かの木陰になる様に

 

君の名前は記憶されることはないが

君の死はいつか抑圧の死に代えるよ

君の死体に蹴躓いて転んだあの時に

俺はやっと地面の冷たさに気付いた

 

もう何も答えを出さず一番良い時と体のまま

今や悩みと苦しみから解放された知人に捧ぐ

R.I.P

2018年10月9日公開

作品集『混詩集 』第4話 (全12話)

© 2018 Juan.B

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