やれ「婚活」だの「恋活」だのと巷の男女は浮足立っているけれど、あたしには新しい出会いなんて必要ない。運命の男性とは既に出会っている。だから、あとはからまった赤い糸をほぐして彼を取り戻せばいいだけだ。
「君と一生を共にすることは考えられない。十年付き合ってみて、お互いの価値観の違いは手の施しようがないってことがはっきりしたよ。今さら君を変えることはできないし、俺を変えようとしても無駄だ。来月から俺は九州の支社に転勤になることだし、いい潮時じゃないかな?」と、もっともらしい決まり文句で彼は別れを切り出した。でも、高校二年のとき以来の付き合いなのだから価値観の違いなんてあるわけがない。他に女ができたに決まっていた。
十年ものあいだ、デートのときには自慢のスポーツカーのようにあたしを周囲に見せびらかし、夜にはさんざんあたしの体を貪った。お互いの家族とも親しくなった。それなのに生活の保障さえ一切しないであたしを放り出し、別の女に乗り換えるなんて自分勝手すぎる。あたしにとって彼が運命の男性であるように、彼にとって運命の女性はあたし以外であってはならないのだ。
復縁活動の第一歩は、女の素性を突き止めることだった。今年に入って彼のSNS上でコメントのやり取りが増えた相手に見当をつけて、興信所に調査を依頼したらすぐに分かった。高橋里美という平凡な名前の女で、彼とは本社の営業部で二年前から同僚だった。家系や学歴に際立つ点はなく、服装のセンスもそこそこ。強いて美点を挙げるなら、整った顔立ちくらいのものである。あたしに対しては転勤を別れの言い訳に使っておきながら、高橋里美とは九州に行ったあとも連絡を取りあい続けているところが癪に障った。
高橋里美は仕事が終わったあと、毎晩九時から十時にかけて自宅の近所をウォーキングする。途中で横切る小さな公園で待ち伏せて顔に酸をかけることなどたやすいことだった。ただれた顔面を両手で押さえながらのたうちまわる姿を見ていると、胸がすうっとした。後日のニュースによれば、手術をしても高橋里美の顔がもとに戻ることはないという。他人の男に手を出した女には当然の報いである。
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