夜になると平林寺大門通りは月明りも届かず、その暗闇があまりにも深いため
トンネルのように枝を覆っていた桜並木が、伐採されることになった。
春は満開の桜の花弁が舞い、通行人を楽しませていたのだが、
たしかに夜は全くの別世界だった。
伐採後の通りは、夜空を見上げることができるようになり、
暗闇もだいぶ薄れていた。
下校途中の学生は以前よりも安心して通行できるだろう。
あの桃色に染まる大門通りを知る身としては、少し寂しいものがあった。
もう春にあれだけの見事な桜を見ることができなくなったという事実は、
これからも残り続けるのだ。
思い出されるのは、この平林寺大門通りを
車両通行止めにして行われる祭りで、
ずらりと並んだ屋台に、子供心は夢中になっていた。
わた飴を食べながらくじ引き、狙いのゲーム機は当たらなかった。
なんだか冴えないキャラクターのキーホルダーをもらい、
適当に扱っている内に失くしてしまった。
型抜きには何度も挑戦したが、惜しいところで割れてしまう。
小遣いをだいぶ使ってしまい、あとで後悔した。
どれくらいの時間遊んでいたのだろう。
あっという間に感じられたが、
とても長い間そうしていたようにも感じられた。
ふいに友達の声に呼ばれて振り返ると
私はすでに幼い頃の私ではなかった。
祭りはいつの日かの夢で終わり、
空が広く澄んでいるのを、ぼんやりと眺めているだけだった。
月明りに照らされた大門通りは静かで、
平林寺から鳴り響く鐘の音がよく聞こえる。
少しだけ伸びてきた木々の枝が夜空に映り、
まるで以前の姿を思い出そうとしているかのようだ。
私は今も通りを歩いている。
そしてまた深まってきた暗闇の奥へと、引き寄せられていた。
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