AI化

小林TKG

小説

2,293文字

年明けたし何か書いておきたい衝動で書きました。

ある日のことです。チャイムが鳴ったので、出てみるとスーツを着た男の人が立っていました。

「○○さんの御宅でお間違いないでしょうか」

と、スーツの人は言いました。○○は私の本名です。

「え、はい」

なんすか。え?死ぬんですか私。

普段、そういう方の訪問とか、だからつまりスーツを着た人が家に来るとか、そういうのはないので。っていうか誰も訪ねてきたりしないんです。誰にも家の所在を教えてませんし。誰かが家に来るとか、恐怖でしかないんです。

「突然申し訳ありません。私こういうもので」

スーツメンは名刺を出してきました。

「区役所の方ですか」

さいたま市○○区だから区役所なんだ。あー。当たり前と言えば当たり前なんだけど。あー。

「そうなんです。突然来てしまって申し訳ないんですけども、今、ちょっとお時間よろしいですか」

区役所の人はそう言って私を伺うように見ました。

「えーっと、あーっと」

家に?うちに?えー?

「じゃあ、よろしければ、一時間後にそこにあるファミリーマートでお待ちしてますので、いらしていただけますか」

「あ、あい、はい」

家に上がられると思って恐怖しましたが、どうやら大丈夫のようです。

「それではよろしくお願いします」

区役所から来たスーツメンは頭を下げると去っていきました。

 

一時間後、死ぬのかな、殺されるのかなと思いながら、ファミマに行くと、スーツを着た男の人が待っていました。再会した際、

「すいません。お待たせして」

私も一応もう大人なので、そういうことを言いました。

「いえいえ、こちらこそご足労願いまして。それじゃあ車に乗ってもらえますか」

スーツメンは言いました。

「どっか行くんですか」

「お時間大丈夫ですか」

「は、はい」

「じゃあ、ちょっと区役所の近くに喫茶店がありますので」

「はあ」

スーツメンの車は、ファミマではなく近くのタイムズに停めてありました。助手席に乗ろうとすると、

「あ、すいません。後部座席でいいですか」

と言われました。窓越しに中を観ると、助手席には何かしらの書類が色々と乗せてありました。後部座席のドアを開けて乗り込むと、車内はなんか、ハワイアンな香りで満たされていました。ココナッツミルク的なやつ。バックミラーに葉っぱの形の、いいにおいするやつがぶら下げてありました。

 

「突然の事で申し訳ないんですが、○○さんは、SNSをたくさんやられてますよね」

「え?」

スーツメンの運転する車が喫茶店について、入店して席についてそれぞれコーヒーを注文している時、不意にそう言われてドキッとしました。

「なんすか、なんですか」

「アメブロとかやってますよね。あとTwitterと、それに、noteも……あ、○○さんでお間違いないですよね」

「えーっとはい」

普段はやってないって言います。誰にも。大半の人達の前では、何もやってないって言います。『何書くことあるんですかwww』って。『私がwww』『何にも書く事なんてないですよwww」って。

「秋口高瀬とか、和委志千佳とか、ユイニコール七里とか、場所ごとに名前を変えていらっしゃいますけども、全部、○○さんでお間違いないですよね」

「えーっとはい」

恥ずかしい気持ちでした。その時。本当に恥ずかしい気持ちでした。外で。屋外で。

「でですね、この度、○○さんのSNSの量が、一定量を越えたんですよ」

「一定量を越えた?」

「はい。まあ、そうだなあ。全体的な量です。SNS、ネット上に放出した情報とでも言いますか。その量が」

「超えたんですか」

私超えたんですか。

「超えました」

その時、注文したコーヒーが来ました。私は我に返って黙りました。おでこから変な汗が出てきました。脂汗です。スーツメンも黙ってくれました。それはとてもありがたい事でした。店員が去ると、スーツメンは話を再開しました。

「で、和委志千雅の名前で、即興小説トレーニングというものをやってらしたじゃないですか」

あ、ああ、あああ、

「……はい」

恥ずかしい奴ね。あの一番恥ずかしい奴。

「あれがサ終したんですよね。最近」

「はい。最近ってまあ、私は最近やってなかったですけども」

「で、そのページが近々無くなってしまうという事で、それが無くなっちゃうと○○さんの情報量がまた規定量に満たなくなってしまうんで。今、今この時に、無くなる前にお願いしに来たんです」

お願い。お願いですか。

「死んだあとAI化しませんか?」

スーツメンは言いました。

「死んだあとAI化」

死んだあとAI化?死んだあとAI化って何?

「○○さんがこれまでにネット上に上げた様々な情報で、もう死んだあとも、○○さんは続けられるんですよ。もう」

「はあえええ」

死んだ後も、続けられるの。

「っていうかもう、今からでもいけるんです」

「今からでも」

「はい。もう○○さんが直接やらなくても、出来るんですよ。諸々、今日っていうのはあれですけども、例えばまあ、一か月二か月先からとかでも」

「なんで、なんで私がそういうなんか、そういうのの俎上に上がったんでしょうか」

正直な疑問でした。AI化云々の前に。なんで私。なんで?

「いや、凄いやってらっしゃるじゃないですか○○さんは。大抵、皆さん、こんなに続けられないですよ。バズってもいないのに」

あー。

「っていうか、知ってるんですね。私が色々な名前でやってるの」

「そらまあ……だって○○さん、マイナンバーカードって持ってるじゃないですか」

えーっと、はい。ドコモでポイントもらえるっていうんで、作りましたけども。

「だから知ってます」

スーツメンは言いました。すごく恥ずかしい。ものすごく。脂汗が凄く出る。おでこのあたりから。

2023年1月18日公開

© 2023 小林TKG

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