トルティー闇

小林TKG

小説

1,635文字

なんか、思いついちゃって。捨てるのも勿体ないので。

嫌なことがあっても、溜め込む方だ。

イエス。

〇。

→。

健康診断に行った際、この様なアンケートじゃないけど、イエスノー検診というか、イエスノーのフラグチャートであなたはどういう人かみたいのを診断するみたいのをやった。最初の受付で、尿と便の採取キットを出した際に、

「そうしましたら、中にお入りになってもらってロッカーで着替えてもらって、それで時間がある際にこちらを書いてください」

と渡された。ペンもついていた。

それを待合室でイエスノーイエスノーでやって、最後にその項目が出てきた。

『嫌なことがあっても、溜め込む方だ。』

イエス。

〇。

→。

『あなたはタイプKです。』

タイプK。随分とあるなあ。ローマ字分全部あるのかなあ。

そう思いながら用紙を裏返してみたが、特に何も書いてない。えー、タイプKってなんだろう。そう思ってると名前を呼ばれた。

「次はバリウムですよ」

あ、はい。

検査室に案内される際に、看護師の方に、

「それ出来ました?」

と聞かれた。はい。と答えると、じゃあお預かりしますね。と用紙とペンを回収された。

その後、発泡剤を飲んだりバリウム飲んだりして、げっぷするなと念を押されて、機械でぐるんぐるん回された。

それから、採血をしたり、聴力検査をしたりした。

最後に、先生、医師の待ってる小部屋に案内されて、そこで問診を行った。

「タイプKでしたよね」

バリウムで白くなった胃の写真を見せられて、特に異常も無いですねーなんて話をして、もう終わるかなと思っていたら、医師先生がそう言った。

はい。

はい。そうです。確か。用紙が回収されたんで、もう定かじゃないですけども。

「タイプKはこちらです」

先生医師から手帳タイプの小さい冊子を一冊渡された。

「あまりつまらないことにくよくよしないように」

そう言われて、健康診断は終わった。

帰りのバスの中で、渡された冊子を確認した。タイプKはため込みやすいので、こまめに処理していきましょう。と書かれていた。役立たねえことが書いてあった。

しかし、その次のページに、

『例えば』

という項目があり、

『嫌なことがあったらそれを紙に書きましょう。そしてその紙を箱の中に入れます。そうすることで、あなたの中でそれが処理されます。次に進めるようになります』

と書いてあった。そういうものなのかなあ。と思ったりしたが、でも、冊子を閉じて、少しバスの車窓を眺めているうちに、

「……」

もしかしたらこれは有益な情報かもしれないと思った。

冷蔵庫にタコスの準備をしてきていた。

「健康診断が終わったらこれで酒飲んでやるんだ」

って。

ちょうど、

ちょうど、それで代用できないかな。

バスの車窓を流れる風景を見ながら思った。

家に帰ってから、嫌な事を紙に書きなぐった。子供の頃から今に至るまでの。それから未来の不安と。それをタコスの皮、トルティーヤに思いっきり叩きつけた。紙を。嫌な事を書きなぐった面を。トルティーヤに叩きつけた。

「おおおお」

紙をはがすと薄くなっていたし、反転もしちゃっていたけど、トルティーヤの皮に嫌なことが転写されていた。

そういう皮を、トルティーヤを何枚も作った。

それに辛めに味付けした肉だとか、ネギだとか、アボカドだとかを挟み込んだ。

そして、酒の準備もしていざ食べようと思った時に、

「あれ、これ自分で食べたら意味ねえなあ」

って思った。

嫌な事をしまう箱が自分って、それ意味ねえなあって。自分から出たものをまた自分の中に収めるとか意味ねえなあって。

一人の知り合いに電話した。

「今から家に来れる。お酒飲もう」

と提案した。

知り合いは何も知らずに缶ビール六本パックを持ってふらっとやってきた。

「これ食べてくれない」

その知り合いに食べさせた。

「ああ、意外とおいしいなあ」

知り合いはそう言いながら食べた。タコスを食べた。私の作ったタコスを食べた。

私は愉快な気持ちになった。その知り合いが一口食べるたびに、愉快な気持ちになった。三年峠の話みたいに。一口食べるたびにどんどんと愉快な気持ちになっていった。

2023年1月19日公開

© 2023 小林TKG

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