こんどはわたしがはしりたい。そう言って舞はホテルの駐車場にとめたNC750Sにまたがった。円がうしろね。俺はそのことばにしたがった。まだ朝日はのぼっていない。
山道をくだり、たとしえもなくながい一本道を往った。
バイクをはしらせているあいだは、ふたりにことばはない。すれちがうくるまもない。風をきる音と、道だけがある。
やがて朝がきた。
ヘルメットにおさまらなかった舞のながい髪に、ひとすじ、銀にひかるものがあった。黒い髪がじまんで、この歳になるまでいちども染めたことのない女だ。俺は月日ということを思った。三十年という時を思った。
昼ごろ、道の駅についた。俺と舞はそこでうどんをすすった。化学調味料の風味がする、ふとい麺だった。
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