続選挙野郎

無職紀行(第4話)

消雲堂

小説

1,161文字

電車が北斗線印旛駅に着くと、夜が明けたばかりの仄暗い冬の空が広がっていて、上空に薄っすらと漂う筋雲が氷点下の冷気を吐き出しているようだった。駅頭での早朝演説時間まで20分ほどあるので、北斗線ホームにある待合室の中に入って暖を取った。待合室の中はエアコンが効いて、かなり暖かくなっていて快適だ。

さすがに早朝過ぎて待合室の中には誰もいなかったが、数分すると上野行きの電車到着があるのか10人ほどのくすんだ色のコートを着た男たちが携帯やスマートフォンを眺めながら入って来た。彼らが入ってくるたびに自動ドアの外から鋭い刃のような冷気が侵入してくる。彼らは忙しなく指を動かしては「あ」とか「う」とか小声を発しながらニヤニヤしている。携帯やスマートフォンでゲームでもしているのだろう。

僕は電車の中で携帯やスマートフォンを見ている人の姿が嫌いだ。数人ならばまだいいが、ほぼ全員が横一列になって聖徳太子が釈を持つ姿のように電話を眺める姿はあまり利口には見えない。

女子高校生なんか、意識してパンツを見せようとしているのかと思われるほどにほぼ全員がスカートが短いし、さらに年がいった若い女性たちも同じような化粧をして、同じような顔をして、同じような服装をして、同じような言葉遣いで平気なのである。さらには幼稚で稚拙な文化嗜好までが、まるで国家共有されているかのように同じなのである。彼ら彼女らには、否、日本国家にはかなり以前から個性という感覚は消失してしまっている。それはなんだか大昔の共産主義国家の人民服姿を見ているようでもある。

しばらくすると上野行きの電車がホームに滑り込んで来た。先ほどの男たちのうち数人が無言のまま待合室を出て行った。待合室には僕以外に2人が残った。彼らは成田方面の電車に乗るのだろう。時計をみると5分前になったので、待合室を出て駅の改札に向かった。待合室待合室の中で温まった僕の身体は、凍った水の中に放り込まれたように、急激に体温が奪われていくのがわかる。

ホームからエスカレーターに乗って階上の改札に出る。誰もいないので付近の大きなショッピングセンターの前をウロウロしていると、徐々に印旛沼方面が明るくなって太陽の光を頬に感じられるくらいになった。やっと夜が明けていくようだ。空気も早朝の冷気から少しずつ暖かくなっていくのがわかる。深呼吸しながら空を見上げると、成田から飛び立った旅客機だろうか、飛行機がゆっくりと東の方向に飛んでいくのが見えた。

大勢の人の気配を感じて改札の方を振り返ると、赤いジャンパー姿の議員秘書たちが議員名と党名を印刷したノボリを担いで走ってくるのが見えた。待ち合わせの時間を10分も過ぎている。

「何だ?時間通りには始まらないんだな」ブツブツ言いながら僕は彼らの元に走っていく。

2013年1月24日公開

作品集『無職紀行』第4話 (全10話)

© 2013 消雲堂

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