岡本尊文とその時代(三十三)

岡本尊文とその時代(第33話)

吉田柚葉

小説

2,359文字

「自己受容」無しに「自己肯定」は在り得ない。

私の愛車であるボルボ40のハンドルは宮崎氏の手に握られていた。スイッチをオンにしたシートヒーターは、日が照るにつれ、無用になった。空に雲は無く、果て無くまっさらな青が広がっていた。私は煙草を飲んだ。車内には、ラジオ放送が流れていた。

 

 ――……其れも宇宙の変化の所為なのでしょうか。

――うん。其れは間違いないですね。所為、と云うか、兎に角そう云う物なのです。……そうだな、ぼくが今のビジネスを始めた時――二〇一四年頃ですね――は、月収四十万に到達するのに一年以上かかりました。ですが、今だったら、一年もかからないです。三週間とかですね(笑)。

――本当ですか(笑)。

――上手く直感を使えれば、ですよ。で、話を元に戻しますが、実際に、大人から子供まで、直感だけで生きているような部族は今でも地球上に存在してます。そう云う人達は、直感のエリートですんで、しかるべき知識を身に付けて、日本とかアメリカとか、大都市に出て来てぼくのやってる事業なんかを始めると、ぼくの百倍くらいはすぐに稼いじゃうんじゃないかな。

――それで、その、直感は、具体的にどう云う物なのでしょうか。

――具体的に、と云うのがどう云う意味かは判りませんが、その「具体例の提示を求める」行為自体が、直感の真逆の行動なんです。つまり、脳で考えて判断する、と云う行動……。

――はァ……。

――直感が何なのか知りたければ、自分の子宮の声を聞く必要があります。男性であれば、えー、臍の直ぐ下の辺りかな……。

――ごめんなさい、聞く、と云うのはどう云う事でしょうか。どうもイメージがつかなくて……。

――今、自分が求めている事を自分で自分に訊ねる、と云う事です。眠い、とか、焼肉が食べたい、とか。そう云うのが一番判り易い直感です。もっと高い次元の直感を知りたければ、やはりそう云う次元の低い直感をいちいち気にかける事から始めるしかありません。

――なるほど。ではその、気にかける、と云うのは……。

――惰性であるとか、ルーティーンであるとか、そう云うのを徹底的に疑ってみる、と云う事です。いちいち、自分に訊くんです。例えば、此の後スターバックスに行くとします、行ったとします。で、コーヒーを頼みました。飲むわけですが、二口くらい残ってしまった。そこで、その二口を飲みたいのかどうか、自分に訊くんです。で、いらないとおもったらそのまま捨てちゃう。

――其れは……、勿体無いと云うか……。

――しかし其れが「自己受容」なんですよ。「自己受容」無しに「自己肯定」は在り得ない。そして「自己肯定」の出来ない者の直感が研ぎ澄まされる筈が無いのです。

――はァ……(笑)。

――宇宙的な流れから言えば、二〇一二年の十二月二十二日あたりに、完全にフェーズが以降してしまったんです。直感で生きなくてはならないように、宇宙構造が入れ替わってしまった。そう云う意味では、日本は他のどの先進国よりも対応が遅れているんです。何時いつも通り(笑)。

――其れは、どう云った点から言える事なのでしょうか。

――例えば、ADHDと呼ばれる人たちに関する理解が、そもそもおかしいんですよ。つまり、ADHDの治療薬と云うのがあります。ドパミンやノルアドレナリンを人工的に摂取させる事で、無理矢理に集中力を上げさせると云う薬ですが、ああ云う薬っていうのはヨーロッパではとっくに使用を禁止されている物なのです。いや、ヨーロッパに限らず、もう世界中で禁止されている。其れが、日本だけで使われ続けている。薬を製造している会社の搾取源として、日本がいいように使われているわけです。こう云う事を言うと、どうも陰謀論じみてしまうので余りに言いたくないのですけれども……(笑)。しかし、常識で考えても、薬を以て子供を机に縛り付けておこうとする行為は、立派な人権侵害ではありませんか。

――そう言われれば、そうかもしれません……。

――だけれど日本では其れがまかり通っている。自分を殺して皆に合わせるのが良いと云う間違った価値観が絶対的な基準として存在し続けているわけです。そのためになら、身体に悪い薬だって子供に飲ませる。副作用だって凄いですよ、これ。頭痛、めまい、不眠、傾眠、幻覚、或いは動悸、血圧変動……。

2019年7月24日公開

作品集『岡本尊文とその時代』第33話 (全41話)

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© 2019 吉田柚葉

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