絶滅者 44

hongoumasato

小説

1,180文字

幾多の戦いを経て、ようやく聖域である我が家を取り戻した「ワタシ」。

家族と穏やかな時間を過ごしていると、不意に窓ガラスが外部から破壊される。

SAT。

日本警察最強にして最後の砦が、「ワタシ」を急襲する・・・

明るい太陽の光が、温かくワタシ達を包み込む。

 

ワタシは家族と幸せに暮らしている。

 

春の小川のように流れる穏やかな時間。

 

ここは家族だけの空間。

 

ここにあるのは、家族の愛だけ。

 

そしてその愛だけが、ワタシの全て。

 

突然、窓ガラスが砕け散った。

 

手榴弾らしきものが数個、部屋に放り込まれる。

 

それは凄まじい光と音を発した。

 

視覚と聴覚を破壊し、脳を麻痺させる閃光音響弾。

 

間を置かず、ワタシ達家族の聖域に異物どもが侵入してきた。

 

全身黒ずくめの、屈強な人間達。

 

腕には「SAT」のワッペン。

 

機動隊の特殊部隊。

 

日本警察最強にして、最後の砦。

 

「……!」

 

突入の勢いはどこへやら。

 

SAT達は全員、フリーズしている。

 

「こちら小隊二! リビングには死体が四つ! 整然と並べられている。マル被は……マル被もだ!マル被も横たわったいる! マル被の生死を確認する!……待て! 何だ、あの両脇にあるものは……」

 

ワタシは両脇の散弾銃と日本刀を手に取り、ゆっくり立ち上がった。

 

唐突に立ち上がったワタシに、SAT達は相変わらずフリーズ。

 

その中の一人が、

 

「た、隊長! スタン・グレネードが効いてません!」

 

と防護マスクの中で、くぐもった悲鳴をあげる。

 

閃光音響弾を警察では、スタン・グレネードと呼ぶらしい。

 

どちらが正式名称か?

 

どうでもよかった、そんな些末なこと。

 

だって、ワタシには花火程度のオモチャだから。

 

それよりも――。

 

この愛に満ちた空間を汚した者達。

 

その代償は払ってもらう。

 

ワタシが一歩踏み出す。

 

それが、引き金になった。

 

幾多の騒音と悲鳴。

 

ワタシ達家族の癒しの場に、相応しくない。

 

お父さんはビックリしたかな?

 

お母さんは笑いながらも、恐怖で涙ぐんでいるだろう。

 

弟の賢治はもちろん、震えているに違いない。

 

日本警察最後の砦は、呆気なく崩れ去った。

 

また、静寂が訪れた。

 

穏やかな時間が流れ始めた。

 

ただ、家族のくつろぎの場には相応しくない「ゴミ」が、部屋にいくつか転がっている。

 

でもみんなは、気にも止めていないようだ。

 

父は砂糖がたっぷり入ったコーヒーを飲みながら、経済新聞を読んでいる。

 

母は夕食の献立を考えてくれている。

 

弟は父に、一緒にゲームをやろうとせがんでいる。

 

先に宿題をやりなさい!

2019年2月24日公開

© 2019 hongoumasato

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