8,589,934,591

明日世界が確実に滅びるとして(第1話)

合評会2018年07月応募作品

波野發作

小説

2,639文字

破滅派合評「明日世界が確実に滅びるとして」参加作品。
本作は、「8,589,934,592」との2投稿で1つの作品として成立しています。どちらでもお好きな方からお読みください。

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思考Log:No.8589934591

Command:REC

 

次の相手が誰か。今となっては、それを妄想するぐらいしか楽しみがない。

たぶんもうすぐ時間だ。毎日やっていればなんとなくわかるようになるものだ。実際わかるようになった。昨日はドンピシャでゲートが開いた。

昨日のはちょっと殴れば死にそうなジジイだったが、誰にも殴られることなく死んだ。もちろん俺も殴っていない。

試しにとびかかろうとは思っていたが、それで俺がどうなるのかはわからないし、リスクを冒してもしも成功したとしても、何も得るものがないから何もしなかった。

そのかわり床が抜けるまでの時間をきっちり測った。思ったとおりそれは花びらが全部抜けてからきっかり3分間。180秒だ。

なんとなく3分なのではない。これまで5日数えたが、ずっと同じ時間だった。3分。

3分で何ができるだろう。

 

白い服の長髪のおっさんは、あぐらをかいて瞑想をして、そのまま奈落に消えた。

赤いタイツのプロレスラーは、壁に穴を開けようとしたのか、殴る蹴るの大暴れをして、そのまま落ちた。

青ひげのケツアゴ野郎は、泣き叫んで命乞いをし、呪いの言葉を撒き散らして黒い床に吸い込まれていった。

3分でできることなど限られている。よほど計画をしっかり練らなければ、やりたいことなどできるわけがない。

今までは結果が出てから落ちるまでの時間がよくわかっていなかったから、どうしていいかわからなかった。

しかし、今は見えている。相手が落ちるまでに何をするべきか、俺の中ではきっちりシミュレーションができあがっているのだ。

 

そのために、次の相手を考えておく。

次の相手が女かどうかは五分五分のはずだが、どうも男に偏ってるいる気がする。最初の頃の連中がどんなだったかは数えていないしメモもないからはっきりとはわからないのだが、女は数えるほどしかいなかったはずだ。老女と幼児を除くと、やはり片手に収まるぐらいしかまともな女はいなかったと思う。

次の相手が女かどうか。女である前提でいつも考えてきた。相手がどんなやつか見えてから花が回り始めるまでたぶん30秒ぐらいだ。花が回るのは、その花にもよるだろうがだいたい1分というとところだろう。トータルで1分30秒。決断するには十分な長さだ。いける。俺はできる。いつでも準備はできている。

 

まだ見ぬ相手を想像してみるが、頭に浮かぶのはこれまでの相手ばかりだ。

思えば最初の相手がベストだった。あれは同じ駅で降りた女だ。少し歳上ぐらいか。上機嫌で弾むように歩いていたのを覚えている。次に会ったときは、バスタオルを巻いただけの半裸で現れたが、だいぶ取り乱していた。俺もひとっ風呂浴びたところだったのでちょうどよかったのだが、いかんせんあの頃は今のこの状況がまったく理解できていなかったから、俺は何もしないまま、ただ見ているだけで、それで花は回り、花びらが消え、最後の一枚が俺の方を向いたあと、しばらくして女は床に消えたのだった。あれほど好都合な状況はその後現れてない。

自分たちが何をさせられているか、なんとなくわかった頃に、長い髪を後ろでまとめたジャージ姿の美女が現れたこともあった。美女は俺に、協力してここから逃げ出すことを提案したが、5分後にはもういなくなっていた。俺はこのゲームでは無敵らしい。開始から何連勝しただろうか。たぶん20連勝以上はしているはずだが、全員の顔は思い出せないから、正しいところはわからない。ジャージはいい。脱がしやすいに違いないからだ。3分で目的を果たすには、服装も大事だ。ジャージ女のあとで、俺がレイプを決意してから現れた女たちは、どれも複雑な服装ばかりだった。あれらはどうやっても間に合わない。抵抗されたらまず無理だ。最終的には引きちぎってでも脱がすしかない。脱がすまではいい。脱がした先がわからない。時間があれば説得して協力を求めたいが、そう簡単にはいかないだろうし、とにかく時間がない。パニックになっているところに押し込むしかないし、グズグズしていたら俺もろとも落ちるかもしれない。穴は狭いが、抱きつかれていたら逃げられるかどうかは怪しい。

 

手順を整理しよう。まず相手を見る。顔で男女を判断しよう。最近外国人が多い。言葉が通じないから説得のしようはないが、喚かれても何を言ってるかわからないから、良心は痛まないだろう。女だったらもう行くしかない。

花の回転が終わるまであちら側にはいけない。祈るふりをして相手の状態をしっかり観察するべきだ。力はありそうか、抵抗しそうか、服は脱がせそうか。

もしも、いけそうなら、もう実行するしかない。抵抗はされるかもしれない。しかし、俺にどうかされることよりも、今すぐ死ぬことの方が女たちには重大なはずだ。死を前にして、ちょっとやらせてくれるぐらいいいじゃないかと思う。この際多少の年齢はもう問わない。熟女クラスならOKだし、胸がふくらんでいれば少しぐらい幼くてもかまうものか。

とにかく女かどうか。その判断を一秒でも早く済ませて、自分にゴーサインを出すことが重要だ。これができていないと、身体が自由に動かせない。躊躇したら負けだ。やるときはやる。そして、それは今だ。この狭い部屋のゲートが開けば、そこは花が回るコロシアムだ。

まだゲートが開かない。

どう抑え込むかも考えておこう。逃げ回られては面倒だし間に合わなくなる。決着がついた瞬間にダッシュしてタックルをするのが大前提だろう。正面から飛びかかるほうがあとあと便利だろうが、どんな体勢になってもどうとでもできるようにしっかりシミュレーションをしておくべきだ。

抱きつければ胸をもんだり、キスをしたりいろいろやりたいことはあるが、とにかく時間に限りがあるのだから、目的まで一直線に突き進むべきだ。胸だのなんだのは余った時間でやればいい。ダッシュして脱がす。脱がして入れる。出すところまでは考えなくていい。どうせ出る。すぐ出る。それでいい。童貞で死にたくないだけだ。それさえ果たされれば文句はない。人類が滅ぶまでこのゲームが続くとしても、一向にかまわない。

ゲートが開いた。よし! 女だ。

 

EOF

 

※本作品は8589934592と対になっております。2つの短編で1つの作品です。レビューはこちらでお願いします。

8,589,934,592

波野發作波野發作

破滅派合評「明日世界が確実に滅びるとして」参加作品。
本作は、「8,589,934,591」との2投稿で1つの作品として成立しています。どちらでもお好きな方からお読みください。

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2018年7月24日公開

作品集『明日世界が確実に滅びるとして』第1話 (全3話)

© 2018 波野發作

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"8,589,934,591"へのコメント 10

  • 投稿者 | 2018-07-27 01:33

    二作に分けた工夫からは奇抜さが感じられる。人が何者かによって残酷なゲームに参加させられるという設定も『SAW』シリーズのような雰囲気が出ていて悪くない。

    本作において人類は確かに滅亡に向かっているけれど、本当に明日、世界は終わるだろうか? 「Game」のシステムは8,589,934,591人目の人類である男が穴に落ちた後も、破綻なく存続しそうな様子である。例えGameが最後まで終わるとしても、少なくとも世界最後の一人である8,589,934,592人目の女は生き残るので人類が一日二日で絶滅するわけでもない。百歩譲って最後の「Command: Remove」によって女が殺処分されてしまったと解釈するとしても、コマンドを実行する主体がまだ残っている。「『Game』を執り行っている存在」もまた世界の一部であるはずだ。Gameの趣旨を理解することが読む目的になってしまい、どうもテーマとの関連性が薄いという印象を受けた。

  • 投稿者 | 2018-07-28 23:57

    何が起こっているんだろうと、わくわくしながら読み進めました。どちらから読んでも楽しめる構成がおもしろかったです。
    自分が何かルールのわからないGameに取り込まれているという感覚は私には馴染み深く、設定への親近感を感じました。「明日世界が滅びる」感は少なかったように思いました。

  • ゲスト | 2018-07-29 10:56

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  • 投稿者 | 2018-07-29 13:28

    「8,589,934,591」「8,589,934,592」という題名からして非常に興味が惹かれました。読み進めていくうちに何か起こってるのか?と、途中で読むのを止めることが出来ませんでした。
     なるほどと思ったのは二作品を読んでからで、なんと不思議もな感覚を受けます。この発想、すばらしいと思います。一気に世界が終わるという展開を想像しがちですが、確かに最後の最後に世界から人がいなくなるとなった日、それが世界が滅ぶ前の日であるという発想もありなんだと感心しました。幾つもの発想の柔軟性を学ばせていただきました。

  • 投稿者 | 2018-07-29 13:33

    「8,589,934,591」「8,589,934,592」という題名からして非常に興味が惹かれました。読み進めていくうちに何か起こってるのか?と、途中で読むのを止めることが出来ませんでした。
     なるほどと思ったのは二作品を読んでからで、なんと不思議もな感覚を受けます。この発想、すばらしいと思います。一気に世界が終わるという展開を想像しがちですが、確かに最後に世界から人がいなくなる日、それが世界が滅ぶ前の日であるという発想もありなんだと感心しました。
    ただ、女の人が生き残ったら、世界は滅ばないのかな?

  • 投稿者 | 2018-07-29 13:34

    「世界の滅亡」というテーマに対し、どうやって世界を滅亡させるか、あるいは、何をもってして世界の滅亡とするか、という点からこだわって書かれた小説だと感じました。設定が面白く、こういうアプローチもあるんだな、と素直に驚きました。その一方で(あるいはそれゆえに)、世界の滅亡前に主人公がやりたいことがセックスというのは、少し普通に見えてしまいました。

  • 投稿者 | 2018-07-29 13:40

    8,589,934,591人目のやりたがり男のコマンドがRECであり、次の信心深い女のコマンドがPLAYとなり、STOP,REMOVEと続いているのは、なんだろうなあと深読みしました。男が勝って女は犯された上に転落していったのでしょうか。
    同じ事件を二つの側面から描き出す手法はとても良かったです。文字数が許すなら三つくらいあっても面白かった。
    滅亡の方法は前作の「ホームラン酒場」を彷彿とさせる残酷ゲームですね。花がくるくる回りながら花びらが落ちて行くやり方は、前作より優雅だし、何者かの絶対意思が関わっている感があり「世界の終わり」に相応しい舞台だと思いました。
    男は望みを遂げられたのか、女は祈りの力で勝ち抜いたのか、書かずに終えているところが心憎いです。

  • ゲスト | 2018-07-29 16:38

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  • 編集長 | 2018-07-31 12:04

    構成に工夫は見られる点は評価するが、テーマに忠実とはいえない。デスゲームものとして、「世界を支えるルールはなんなのか」が大オチなのだが、それが提示されていないように思える。

  • 編集者 | 2018-07-31 16:23

    構成については工夫していると感じる。2人の視点をこのような形で分けたのは良い。ただ、ゲーム的世界観については個人的にしっくりこないものがあった。

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