メニュー

ぼけ咲き

無花果回

画像のなかで、春は死なないふりをしている。
ピントの外、ぼけたままの輪郭で、
あなたはまだ、解(ほど)けつづけている。
──レタッチする指は、弔(とぶら)う指でもある。
礼儀正しく削られてゆく死者たちの、
その「礼儀正しさ」のうちに、いま、詩は立つ。

タグ: #田園詩 #詩

小説

562文字

ひとの絶えた野に、
あをい花が、
まだ 咲いてゐる。

 

ほんたうは、もう
咲いてゐない。
土のうへにも、もう
ゐない。

 

それでも 焦點ピントの内側で、
花弁はなびらのふちが、
誰かの指で うすく
ととのへられて、
死なないふりを してゐる。

 

これを、誰かが
保存ほぞんと 呼びはじめた。

 

──

 

あなたは
焦點ピントの外にゐる。
畫素がその すきま、
緑が にじみ、
輪郭が やはらかく
ほどけてゐる場所。

 

──あなたの中指の付け根の、
ちひさな硬いこぶも、
笑ふと一拍 遅れる
左の頬も、
焦點ピントの外で
そつと ほどけてゐる。

 

合はないことが、
まだ、あなたを 殺さずにゐる。

 

レタッチの指は、
とぶらひの指でもある。
光の傷を なぞり、
失はれた緑を すこし足し、
死を、もう一秒だけ
うしろへ ずらす。

 

その指の 一本は、
わたしのものではない。
ひとの指のかたちを 学んだ、
あたらしい指が、
あなたの瘤を、
礼儀正しく
けづつてゆく。

 

──

隅の署名しよめいは 読めない。
かすかな漢字のうらがはが、
畫素のしづかな汗で にじんでゐる。

 

死なないことは、
生きることとは、ちがふ。

 

それでも わたしは、
このめ針の花野はなのを、
もう一度 ひらく。

 

あなたの輪郭は、
わたしの 知らないどこかで、
ぼけ
き してゐる。

 

知らないまま、
あすも、ここを
ひらく。

© 2026 無花果回 ( 2026年4月28日公開

読み終えたらレビューしてください

みんなの評価

0.0点(0件の評価)

ログインすると、星の数によって冷酷な評価を突きつけることができます。

  0
  0
  0
  0
  0
ログインするとレビュー感想をつけられるようになります。 ログインする

著者

この作者の他の作品

この作者の人気作

「ぼけ咲き」をリストに追加

リスト機能とは、気になる作品をまとめておける機能です。公開と非公開が選べますので、 あなたのアンソロジーとして共有したり、お気に入りのリストとしてこっそり楽しむこともできます。


リスト機能を利用するにはログインする必要があります。

"ぼけ咲き"へのコメント 0

コメントがありません。 寂しいので、ぜひコメントを残してください。

コメントを残してください

コメントをするにはユーザー登録をした上で ログインする必要があります。

作品に戻る